伝えたい、伝わらない

 フランを守るために、なんとかして暗殺者が獣人を連れていることを知らせなくちゃ!


 私は深呼吸すると、慎重に言葉を選んだ。


「ねえ、この紋章って獣がモチーフになってるわよね。ということは……獣が関係している暗殺者なのかしら」

「獣、か……犬を使役する者たちなら聞いたことがあるが」


 そうだね!

 人間が狩りに使う動物っていったら、犬が一番ポピュラーだね!

 でも、私が伝えたいのはそこじゃない!


「でも、この横顔ってネコっぽくない? 鼻短いし」

「トラやヒョウが見世物になっているのは、見たことがあるが……猫に似たの生き物は犬に比べて躾のコストが高い。暗殺目的で秘密裡に連れまわすのは難しいだろうな」

「ああああ、あの、使い魔、とか……? 呪術の中には、動物を思い通りに操るものがある、って師匠から、聞いたことがある、よ?」


 そういう魔女っぽい魔法あるんだね!

 知らなかったよ!

 確かにそういう魔法使ってる暗殺者がいたら怖いね!


 でも、私が気にしてほしいのは、ネコミミついてる人型の暗殺者なんだよー!


「使い魔か……ん? リリィどうした」


 フランがふと私の顔を覗き込んできた。


「えっと……」

「……」


 気まずい。

 絶対変に思われてる。

 でも、このまま使い魔対策だけされても、獣人には対抗できない。


 私が黙っていると、フランは眉間に皺を寄せたあと、私から視線を外した。


「……使い魔以外の可能性も、あるかもしれんな」

「そう! 他にないかな? 獣要素のある暗殺方法!」

「ええええ、えっと……フクロウとか、タカに襲わせる……とか……?」


 紋章の形とだいぶ違うね!


「生き物から抽出した毒を使う?」

「そ、そういうのは、だいたい、蛇とか、クモとか……ですね。猫などの生き物は、毒を持ってない、ですから」


 へー、そうなんだ。

 ひとつ勉強になったよ。


「ううん、獣の牙や爪を武器に加工できるけど……暗殺向き、ではないよね」


 ちょっと近くなったけど、ちがうぅぅ……。


「……あと、獣といえば……獣の力を使う種族がいた気がするな」


 おお? だいぶ近いのが出てきたぞ?


「ど、どういう人たちなの?」

「俺も詳しくは知らん。以前小耳にはさんだ程度だ」


 小耳でもなんでもいいから!

 獣人だって言って!


「ハーティアとアギトを分ける霊峰の奥に、獣の耳と尾をもった種族がいるらしい。なんでも、俺たちが使う魔法とは、全く違うスキルを使うそうだ」

「魔法とは違う、スキル?」


 ジェイドが首をかしげる。


「属性のような区切りに縛られないらしい。ただ、強力な反面、どんな術が使えるのかは生まれた時に決まってしまうそうだが」

「すっごい強力な獣の一撃とか、使われたら怖いねー!」


 私が付け加えると、フランは一瞬沈黙した。息を吐いてから頷く。


「……そうだな。強力なスキル以外にも気を付けるべき能力があれば、もっと恐ろしいが」

「獣の耳を持ってるんでしょ? 感覚が鋭いのかもしれないわね」

「……そう、だな」

「ぼ、ボク、離れの周りをチェックしてくる! 人避けのまじないはしてあるけど、感覚が鋭いなら、それでも気づかれるかもしれないから」

「お願い!」


 部屋から飛び出していくジェイドの後ろ姿を見送る。

 よ、よし!

 何とか伝わった! 伝わったぞ!

 私頑張った!!


「……ポンコツにも程がある」

「フラン?」

「なんでもない」


 何がどうポンコツなのか。

 聞き返そうとしたけど、結局頭をなでなでされてごまかされた。



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