侵入者
ジェイドは青い顔をして離れに入ってきた。私は彼の手を引くと、手近にあった椅子に座らせる。
「まず落ち着いて、水でも飲みなさい。外でそんな顔をしてたら、あなたが何か知ってる、って勘づかれるわ」
「う、うん……」
こくこく、と水を飲んでから、ジェイドはうなずいた。
「詳しく話してくれ」
「は、はい。クライヴさんの紹介状を持った人たちが城にやってきました。男の人の使用人が2人、猟師が3人です。全員顔見知りのようでした」
「使用人はともかく、領主不在のこの時期に猟師を増員するのは不自然ね……」
父様は、他の貴族と同様に狩りもそこそこたしなんでいる。だから、城の近くには専用の狩場があるし、そこには獲物を管理するゲームキーパーがいる。しかし、彼らが忙しくなるのは、狩りを楽しむ領主たちが城にいる時期のはずだ。今この時期に増員する必要はない。
フランの話だと、暗殺者は10人程度だったはずだから、残りの5人は城下町にでも潜伏しているんだろうか?
「えっと、旦那様たちがいない間に、騎士様たちと一緒に狩場の整備をするんだって。ターレス隊長の率いる部隊が出るって言ってたよ」
「平時に兵士たちが周辺整備をするのは普通だし……その中には狩場も入ってると思うけど……」
「暗殺者たちだけの捜索では俺が見つけられないから、ハルバード騎士団を使うつもりだな」
「人海戦術ってわけ?」
そんなものに付き合わされる騎士たちはいい面の皮だ。
「ターレス……その名前、聞き覚えがあるな」
「なんでフランがうちの騎士を知ってるのよ?」
「いや、直接は知らない。だが……ああ、これだ」
フランは、さっきまで処理していた書類のうちの一枚を取り出した。
「騎士団の運用資金が、ターレスの決裁を経てどこかに消えている。それも複数回」
「なるほど、クライヴの汚職仲間ね」
ターレスの率いる部隊は、全員敵と思ったほうがよさそうだ。
「ジェイド、あなたは連中の姿を見たの?」
「と、遠目から……ちょっとだけ」
「何か気づいたことがあったら、教えてちょうだい」
彼らはフランを襲っていたとき、手がかりを残さないよう黒装束を纏い、仲間の死体さえ消していた。だけど、城に潜入する場合はそうもいかない。その顔をさらして陽の光の下を歩かなければならないからだ。
「えっと……ぱっと見た印象は、普通の猟師さんと変わらない感じ、だったよ。投げナイフとか、針とか、隠し武器を、服に入れてた、かな? あと……みんな、腕の内側に獣みたいな模様のイレズミをしてた」
「獣のイレズミ?」
「こんな……感じ」
ジェイドはテーブルの上の紙に、牙をむく獣の横顔を描いた。フランが眉間に皺を寄せる。
「腕の内側にこれが? よくそんなところが見えたな」
「ああ、あの、ボク、魔力を使って刻んだ模様なら、服越しでも感知できる、から」
「それはそれで、すごい魔力感知だな……。だが、この模様が暗殺者たちの組織を示すものであれば……ん? リリィ? どうした?」
私は、ジェイドの描いた模様に釘付けになっていた。
その獣の横顔に見覚えがあったからだ。
彼らの名前は『魔獣の牙』。
攻略対象のひとり、ネコミミのツヴァイが所属する暗殺者組織である。
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