イケメンと共同生活とかそれなんて乙女ゲー?
「差し入れもって来たわよー」
フランを匿うことになった翌日、私は台所から拝借した食料入りのバスケットを持って、離れに入った。そこにはベッドに横になるフランと、何やら薬を調合している魔法使い師弟がいる。
「牛乳とチーズ、それからハムもあるわ。たっぷり食べて元気になってちょうだい」
骨折を治療するには、カルシウムと鉄分を取らないとね!
料理を見て、フランは眉間に皺を寄せる。
「そんなに持ってきて大丈夫か? あまり派手にやると、ここに住む人間が増えていると気づかれるぞ」
「平気よ。騎士団の戦闘訓練に参加するようになった従者のために、目指せムキムキパワーメニューを作ってることになってるから」
「ええー……」
へにょ、とジェイドが困り顔になる。
「嘘は言ってないわよ?」
実際、ジェイドには情報収集もかねて騎士団の戦闘訓練にもぐりこんでもらってるからねー。ちょっと差し入れのボリュームが多くなっちゃうのは、世間知らずなお嬢様だからしょうがない。
「……まあ、食べないことには怪我は治らないか。後でありがたくいただこう」
「今食べないの?」
「ちょうどこれから、包帯を交換することになっていてな」
「お嬢も手伝うか?」
ディッツが、薬棚から包帯や消毒薬を持ってきた。フランの治療ついでに私の実習もしてくれるらしい。
「やる!」
「おい……リリィが治療に加わるのか?」
フランが、びきっ、とおもしろいくらいに顔をひきつらせた。
はっはっは、君の目の前にいるのは、ただのお嬢様ではないのだよ。
「私はディッツの弟子だもの。お手伝いは当然だわ」
「そもそも俺はお嬢に治療術を教えるためにハルバード家にいますからね。ちょうどいいので、練習台になってください」
「あ、あのっ、お嬢様が失敗しても、ちゃんと治しますから……大丈夫ですよっ」
「何一つ安心できる要素がない……」
むー、失礼しちゃうわねー。
「あのね、治療術の教科書は一通り把握してるし、フランを助けた時だって、応急処置の手伝いはちゃんとしてるの。怪我を悪化させるようなことはしないわよ。ほら、とっとと脱いだ脱いだ!」
私はフランの服に手をかけた。
粉砕骨折した足以外にも、刀傷や擦過傷が体中いたるところにあるのだ。全部の包帯を替えるのは、3人がかりでも一仕事だ。
「女子が男の服を脱がせるんじゃない」
「だったら自分で脱いでよ。直接傷を見ないと手当できないでしょ」
「……女子が男の裸を見るもんじゃない」
「これは治療! 慌てなくても傷口しか見ないわよー。だいたい、11歳の子供に肌を見られたところで、問題ないでしょ」
「だからお前が……はあ、わかった……」
フランは疲れたようなため息をつくと、おとなしくシャツを脱いだ。
よし、勝った!
「お嬢、そっち持ってくれ」
「はーい」
「ん……よしよし、縫った場所はうまくくっついてきてるな。ジェイド、消毒液」
「はいっ」
ディッツはアルコールから作ったらしい、消毒液をフランの傷口に塗る。さすが、戦闘訓練を受けた騎士。フランはぎゅっと眉間の皺を深くしただけで、それ以上表情を変えなかった。
傷口にアルコールって、相当痛いと思うんだけどねー。
「切り傷のほうは、もうあとは消毒さえしておけば治るな」
「体の中はどうやって治療してるの? 大きな怪我をしたあとは、高い熱が出るわよね」
傷口からは、大量の細菌が体に入り込む。怪我の治療と同時に、抗生物質を飲むのは現代医学の基本だ。小夜子も手術の後には抗生物質を飲まされた記憶がある。
「お、いいところに気が付いたな。そっちは飲み薬で抑える。ちょうどいい、あとでジェイドと一緒に調合してみるか」
「はーいっ!」
元気よく返事をする私の隣で、またフランが眉間に皺を寄せてため息をついている。
「どうしたの、何か文句がありそうだけど」
「子供が調合した薬を飲ませる気か……と言おうと思ったが、普通に肯定されそうな気がしたからやめた」
「ふふっ、わかってきたじゃない」
「東の賢者の名誉のために言っておくが、いくらお嬢の作ったものでも、品質チェックはするぞ? 薬を飲ませて悪化させたらしゃれにならん」
「ってことは、デキが良ければ飲ませるのよね?」
「……デキが良ければな」
「よーし、いい薬作って、フランに飲ませるぞー!」
「……」
フランがまたため息をついた。今のは止めるか応援するか迷ったあげくに、いろいろ諦めたため息だな。彼の眉間の皺が、どんどん深くなってるっぽいけど気にしない!
この機会に治療術のレベルをアップさせるんだ!
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