あなたに向き合う
ディッツの離れに戻ると、入り口前にお兄様とジェイドが立っていた。
ふたりとも、私の姿を見つけるとほっとした顔になる。
「急に飛び出してごめんなさい。ちょっとびっくりしちゃったから……」
「お、お嬢様、大丈夫?」
「うん! アニマルセラピーで元気をもらったから!」
「あにまる……?」
「細かいことは気にしないでいいの」
私とジェイドのやりとりを見て、兄様は息をつく。
「まあいい、戻ってきたならよかった」
「フランドール様は?」
「ディッツが看ている。彼がいるうちは、自決することもないだろう」
「そっか……」
でも、自殺の心配をするくらいにはヤバいのね。
「よし……」
ドアを開けようと伸ばした手を、兄様が掴んで止めた。
「何をする気だ?」
「フランドール様の説得よ」
「あれだけ癇癪起こして飛び出していったのに?」
「大丈夫よ。死にたい、って言ってるのはもうわかってるし、落ち着いて会話できると思う」
でも、兄様は手を離してくれなかった。
「また傷つくことになるかもしれないぞ?」
「そうかもしれない……でも放っておけないよ」
「何故そこまでするんだ。俺はともかく、お前はお茶会で一度会っただけだろう」
「……」
生きることを諦めた小夜子の記憶のせいだろうか、彼女と同じ目をしたフランドールを、どうしても見過ごすことはできなかった。
「あ、あの人の命を救う、って決めて助けさせたのは私だもん! 最後まで責任を取るのがスジだと思うの」
「……先輩は、犬猫か何かか」
「いや、なんか違うのはわかってるけどさー」
「はあ……お前が自分の行動に責任を持とうとしているのはわかった。……好きなようにしろ」
兄様は、ゆっくりと私の腕から手を離した。
「でも、もう駄目だと判断したら手を引くこと。いいな?」
「うん」
「ならよし……まあ、実際のところ、俺では先輩を説得しきれずに困っていたんだ。お前のそのむちゃくちゃな言動のほうが、効果があるかもしれない」
「その言いよう、ひどくない?」
まあ、やることは変わらないんだけどさ。
「あの、お嬢様、これ……」
ジェイドが小さな革袋を私に渡した。中を開けてみると、そこには紋章付きのブローチや指輪、そして何名かぶんの遺髪が入っていた。
「ミセリコルデ家の騎士の遺品ね。拾ってきてくれてありがとう。大変だったでしょう?」
「う、ううん、大丈夫。ボク、魔力を使って人を探知できるから、見つからずに探索するのは、得意……死体も、平気だし」
「難しい仕事だったことに変わりないわ。あなたが手伝ってくれてよかった」
「……うん」
いつものおふざけは横に置いて、私はジェイドに向かって正式な淑女の礼をする。本人は笑っていても、暗殺者の目を潜り抜けて遺品を回収した功績には最大限の感謝をすべきだ。
「それ、あのお兄さんに渡してあげて」
「もちろんよ。生きて持って帰ってもらわなくちゃ」
私はジェイドに笑いかけてから、離れのドアを開いた。
今度こそあの死にたがりを説得しなくては。
そう思って踏み込んだベッドルームでは、今まさに、フランドールの手でディッツが絞め落とされようとしているところだった。
「何やってんのよ!!!!」
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