悪役令嬢は領地で暗躍したい
悪役令嬢の得意技
兄とちょっと仲良くなって、家族別居も悪くないか……と思いながら領地に戻ってきた私を待っていたのは、『計算地獄』だった。
ちょっと何言ってるかわからないと思うけど、私もわけがわからない。
何故!
領地でのんびりするはずだった私の前には!
経理書類が山積みにされているんですか!!
「兄様に検算を頼まれたからだけどね!」
「お嬢、魔法の勉強じゃないなら、わざわざ俺の部屋でやらなくてもいいんじゃねえか?」
根城にしている離れのデスクを占領されて、ディッツが困ったように言う。
「領地の予算とか、決算書とかをメイドに見せるわけにはいかないでしょ」
教育の行き届いてるうちのメイドさんたちは、読み書きができるのだ。適当に自室で作業してたら、領地の機密情報が漏洩してしまう。
「ここには、ボクたちしか来ないもんね。はい、お茶」
「ありがとう! 物分かりのいい従者最高!」
私はジェイドのいれてくれたお茶を飲んで一息つく。
書類の数字を確認して、計算に食い違いのあるところを見つけては、チェックを入れて訂正のメモをつける。最終的にこの数字をどう扱うかは兄様の仕事だ。
書類はあと2枚。
これを片付けたら、午後は久々に思い切り魔法の練習をするつもりなのだ。
目指せ、中級魔法!
目指せ派手な魔法バトル!
「リリィ、いるかい?」
気合を入れた瞬間、離れのドアが開いた。にこにこ顔の兄様が中に入ってくる。
その腕には紙の束が抱えられていた。
「……兄様、その紙ってもしかして」
「去年1年分の税収記録だね」
それをまた検算しろと。
重たすぎるおかわりを見て、一瞬目の前が暗くなる。私の気持ちを知ってか知らずか、兄様はテーブルに広げられた計算済みの書類を見て目を輝かせた。
「わあ……昨日の今日でもうこんなにやってくれたの? やっぱりリリィは計算が早いな!」
ふっ、病弱小夜子の数少ない有効スキル『そろばん検定1級』を活用すれば、この程度の計算、ちゃちゃっと処理できるわよ!
「ありがとう、リリィが手伝ってくれるおかげで、領地の情報が把握しやすくなるよ」
「そ、そう……?」
「優秀な妹がいて、俺は幸せ者だ」
にっこり。
兄様は、分厚い
……領地に帰ってきて、兄弟の会話が増えてわかってきたことがある。
それは、うちの兄様はなかなかイイ性格をしていらっしゃる、ということだ。
洞察力が鋭くて、人間の行動パターンを読むのが得意。そして、人の行動の10手先、20手先を読み、自分がどうふるまえば、相手がどう動いてくれるのか、計算して行動するタイプだ。
今もそう。
私を誉めちぎっているのは、そうしたほうが仕事をするからだ。
わかってはいるのだ。
兄が『妹が計算できてラッキー』と仕事を無茶ぶりしているのは。
いいように使われているのはわかってる。
だが。
「今頼れるのはリリィだけなんだ、お願いできるかな?」
今まで蔑まれまくってた反動で、素直にお願いされると抗いきれない!!
「も、もう! しょうがないなあ! わかったわよ、それも検算してあげる!
お兄様じゃなかったら、許してあげてないんだからね!」
「それ、若様にお願いされたら全部許すって言ってないか?」
「ディッツは黙ってて!!」
「ありがとう。俺ひとりじゃ、書類の計算だけで1年かかるだろうから、助かるよ」
うっ。
わざとが数パーセントはいってるってわかってるのに、妹にちゃんと感謝してるのもわかるから、嬉しい気持ちが止められない……!
この卑怯者兄貴ぃぃぃ!!
よしよし、って頭なでたら機嫌が直ると思うなよ!
……ちょっとほっこりするけど!
「そうそう、頑張ってるリリィにプレゼントがあるんだ」
兄様は、書類と一緒に抱えていたらしい箱を私の前に置いた。書類のインパクトが強すぎて、全然気が付いてなかったよ。
「本当? 嬉しい!」
もー、こういうご褒美があるなら、あるって最初から言ってよー!
何かな、何かなー?
兄様は華美なものが嫌いだから、アクセサリー類ではないよね。
だとしたら、お菓子とか、お茶とか?
どっちも好物だから嬉しいぞー!
しかし、箱の中に入っていたのは食べ物ではなかった。
最高級の竹で作られた螺鈿細工の……
「そろばん?」
それは、前世で見慣れた道具だった。
美しい装飾のされた木枠の中に、計算用の珠が整然と並んでいる。
「リリィが、前に言ってた計算道具を東の国から取り寄せたよ」
「確かに、あると計算が楽だって言ったけどさ」
「あれ? 使わない?」
「使うけどさ……」
結局、兄様が得するだけじゃん!!!!
兄様のくれたプレゼントじゃなかったら、叩き壊してるんだからね!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます