第280話 いつも、誰かのもの(百合。ほのかな片想い)

「あ」

 学校の最寄り駅でない駅。

 そこの駅前にある、古めかしい喫茶店。

 ログハウスの出窓をイメージしたような、焦げ茶色の窓枠、その向こう側に、先輩は居た。

 艶やかな黒髪に縁どられた白い顔。澄ました顔でティーカップを口へ運ぶ仕種。

 彼女の横顔は、出窓にかかるレースのカーテンと重なって、品のいいお人形さんみたいに見える。

(綺麗……)

 部室で見る顔ももちろん綺麗だけど、こうして外で見ると、ちょっと儚くも見えてより綺麗だと思う。

 ここが、学校の近くでないことも関係しているのだろうか。

 そんな風に、ぼんやり見つめていたからだろうか。

「何かあるの?」

 同行者が、私の視線の先に気付いて「ああ」と言った。

「白山パイセンじゃん」

「先輩も、遊びに出るんだね」

「そりゃ、〆切前の気晴らしは誰にだって必要でしょ」

「それもそうか」

 言いながらも、私はまだじっと先輩を見つめていた。

 そんな私に、友人は言いにくそうに「あのさ」と口を開く。

「余計なお世話かも知れないけど」

「なに」

「まあ、これも噂だから、あれなんだけど」

「だから何」

 白山パイセン、有田パイセンと付き合ってるって噂だよ。

 友人の言葉に、

「……ふぅん」

 とだけ、返せた自分を褒めてあげたい。

「仲良しだもんね」

「あれ、反応薄い」

「別に、白山先輩と付き合いたいとか、そういうんじゃないから」

 私は言って、視線を友人へと移す。

「好みの顔してるなってだけ」

「……推し見てるみたいな?」

「そうそう。そんな感じ」

「確かに、白山パイセンの雰囲気、アンタの歴代推しとちょっと被るかも」

「でっしょ」

 それだけだよ、と言う風に笑えたなら、上出来。

 ……そうか、白山先輩には、有田先輩が居たか。

「あ、そうだ。ちょっとあっちに見たい店があるんだけどー」

「どこ?」

 歩き出した友人に合わせるように、踵を返す。

 けれど。

 最後に一瞬だけ、振り返る。

「……」

 窓辺で、優雅にお茶を飲む先輩の、白い横顔。

(あれも、人のものかあ……)

 私が「いいな」と思った人、特別に想いかけた人には、いつだって別の『特別な人』が既にいる。

 まるで、呪いみたい。

 むかーし。ショーウィンドウに並んだ、可愛いお人形さんを「欲しい」と言って。けれども残念、買ってもらえなかったときに、かかった呪い。

 売約済みの札がかかったあのお人形みたいに、いつも私の「欲しい」人は違う誰かの予約済みだ。

(私、このままずっと誰かの『特別』を好きになり続けるのかしらん?)

 それはそれは辛いだろうなあ、と思いながら、私は「欲しいものがあるんだ」と明るい顔で笑う友人を、眩しいものを見るみたいにして見上げた。


 END.


 こんな(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16817139557371711923)目にあってる白山も、後輩ちゃんの目から見たらクールビューティーで、とてもあんな目にあってる風には見えないよ、的なことと、特別なひとを好きになりがちな子を書きたかったので。

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