第274話 それはキュンと来る、かも知れない(百合。片想い?)

「ところで」

「何スか」

 私の部屋で、今日も今日とて、後輩と飲んでいる。

 いつもと変わらないけれど、変わったとすれば、前に彼女がこの部屋に来たとき、彼女から告白されたことだろうか。

 けれどあれから、特に後輩の態度は変わることなく。

 私も変えることなく。

 今日に至っている。

「私と付き合って、何したいん?」

「何、とは?」

 ひょく、と後輩が首を傾げる。

 カマトトぶっているわけではないのが、真っ直ぐにこちらを見る眼差しで察せられた。

「ほら、ハグとか、キスとか、何かあるだろ」

「は、ハグ!? キス!?」

 その単語を口にした途端、後輩の顔がカーッと朱くなった。

「は、破廉恥ッス!」

「いや、告白の流れを作るために露出狂の話をした人間のする反応か?」

 どういう羞恥の設定してんだお前。

「あれは、別に実際やるもんじゃねッスから!」

「そりゃ、実際にやる前提だったら困る」

 とても困る。

 犯罪だもの。

「でも、今、先輩は、その、やる前提の話だったわけじゃないッスか」

「いや、もしもの話だけどな」

 もし付き合ったとして、の話だ。

「そんなん、恥ずかしいッス」

「じゃあ何で付き合いたいんだ」

「それは……」

 後輩は、うーんと宙を見上げながら。

「やっぱり、一緒に居たいからッスかね?」

「一緒に」

「うッス。こうして一緒に飲んだり、遊びに行ったり、泊まりに行ったり……そういうのを一番に『あ、一緒にしたいな』って思える関係になれたら」

 嬉しいなって。

 そう言って、後輩は照れたように笑った。

「それ、あんまり今と変わらんくないか?」

「でも、一番に思い付くってわけじゃないじゃないッスか」

「いや、たいてい一番先にお前の顔思い付くけど」

「……」

「……」

「今の、ちょっと忘れて」

「嫌ッス、忘れないッス」

 我ながら恥ずかしいことを言ったと顔を覆う。

 後輩は、顔を朱くしながらも、嬉しそうに笑った。

「もうとっくに特別だったって感じがして、嬉しッスね」

 あんまりにも嬉しそうにそう言うもんだから。

「……」

 ちょっと胸がキュンとして、

「……マジか」

 付き合ってもいいかも知れないなと、思ってしまった。

 この、純情な『特別』で喜んでしまう彼女と。

 これが恋の始まりなのかは、わからない。


 END.


 こちら(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16817139557107277410)の二人。

 先輩にも恋が芽生えた、か?

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