第243話 ホラゲーを二人でやるのも悪くない(オネエさんとお姉さんのロマンシス)

「えっ、えっ、ちょっと待って、ヒヨコ、ヒヨコ今いなくなって!?」

「早く、早くドアライトでかくに……いや、もう閉めて!」

「了解!」

「違う、右! 右閉めて右!! ヒヨコは右!」

「「ああああああ!!!!!!」」


 ザーッ……


 パソコン画面に砂嵐が走る。

 私は、ドッと背もたれに身体を預けた。

 隣では、ジョセフィーヌが机に突っ伏している。

 時間は、午前零時。

 ホラーゲームをするには、良い時間だ。

 ……まあ、今日は月曜日で、バチバチの平日真っただ中、というか始まったばかりなのだけど。

「せめて一日目を終えてから火曜を迎えたかったのだけれど、今日はもう諦めるか」

「え、明日もやんのこれ……」

「あったりまえ。一日ずつやってくお楽しみとして買ったんだから、このゲーム」

 ちなみに、深夜のピザ屋警備のバイトをするというホラーゲームだ。

 ただの警備ではなく、もちろんのこと恐ろしいものに襲われる(というより、襲われないようにする趣旨のゲーム)。

「楽しい……か?」

 ジョセフィーヌが真顔になる。

「スリルを楽しいと設定すれば、楽しい」

 私は、冷めきったお茶に手を伸ばして答えた。

「それって楽しいのかしら」

「そんなこと言ったら、ジェットコースターだって楽しくなくなっちゃうでしょ」

「確かにそう」

「とにかく、何か新鮮に心動かすものに毎日触れたくなっちゃったわけよ」

「ふぅん」

「ちょっと、学生時代みたいじゃない?」

「そうかしら。……まあ、そうかもね」

 ホラーゲーってところが特に、なんてジョセフィーヌがちょっと皮肉っぽい口調で言う。

「でしょ」

 冷めたお茶は、渇いた咽喉をいい感じに潤してくれた。

 そうね、結構叫んだものね、私たち。

「ま、これで明日もがんばれるってもんよ」

 明日の夜も、また楽しみだ。明日は、流石に二日目に突入したい。火曜日だし。

 んーっと背筋を伸ばして、席を立つ。

「映子」

「なぁにぃ?」

 離脱は無しよ、と私は言った。

「挑戦するって言ったんだから、最後まで一蓮托生よ」

「違うわよ」

 ジョセフィーヌが眉を顰めた。

「一度手を出した勝負事から逃げるなんて、基本的にしないわよ」

「じゃあ、どうしたの」

「別に、何でもないけどさ」

 ジョセフィーヌも席を立って、うーんと腕を天へと突き出した。

「これ、真剣にやんないと絶対次行けない気がするからさ」

「うん」

「仕事は、程々にしなさいよね」

 それから、ニヤッと笑い、「おやすみ」と言って、自分の部屋へと帰って行った。

 私は、ぽりぽりと頬を掻くと、自然、苦笑を漏らす。

「……何処までわかって言ってんだか」

 変わり映えの無い職場。

 平穏な毎日ってことだろうけど、それでもこう、積み重なってくると重くなるものがある。

 チクチクとした嫌味とか。悪気無い、でもズキッと来る一言ひとことだとか。上手くいかない連鎖にハマるとか。

 そういう、一つ一つは小さいけれど溜まっていくと重いもの。

「さ、寝るかあ。……なーんか夢に見そうだけど」

 無理だって喚いても、誰も助けちゃくれないから、自分でガス抜きをする。

 それが、一番平和。

 だから自分一人で復活するし、大丈夫。

 けど。

「あっちも同じ夢見てるなら、明日の朝ネタになるかな」

 一人じゃないと、さらにもう少しだけ大丈夫になる。

 そんな気がするのは、悪くなかった。


 END.


 こちら(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16817139555492166557)の二人。

 作中に出て来る某ゲームは、本当に心臓に悪いなあと思いつつ、ついプレイ動画とか見てしまう…癖になる……。

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