第238話 打ち上げ花火をずっと(従姉弟同士男女。片想い。中学生×高校生)

「いつまで、こうして一緒に花火が見られるかな」

 ドンッ パラララ……

 花火に照らされた横顔が、黄色や、赤に彩られる。

 寂しげな笑顔。

 いつもの紺地に花火が散った浴衣が、何故か大人びて見える。

「は? 何をいきなり」

「だって君、来年は高校生だからさ。こんな、親戚付き合いなんて嫌になるかと思って」

 綺麗だ、と思った。

 と同時に、

「……関係ない。また来年も来る」

 そんな寂しそうな目は見たくないと思った。

 違う。いや、違わないけれど、そうではなくて。

「だから、変わらない」

 俺自身が、自分と彼女の距離を、年齢差……三歳差……以上にもう広げたくなかっただけだ。

「そんなこと言って、高校に入ったらわからないよ。恋人が出来たりするかも知れない」

 今まで連続して打ち上がっていた花火が、先ほどから止まっている。

 準備中か何かなのか、たまに訪れる空白の時間。

 周りのざわめき。風に漂う火薬の匂い。海辺の会場独特の、磯の匂い。

「それを言ったら、そっちだって大学だろ」

「まあ、そうなんだけど」

 だからお互い、もう親にくっついて花火大会とかそういうのなくなるかもね。

 肩を竦めて、彼女が言った。

 その親たちは「人混みはこりごり」と言って、何処かの店に早々に退散していった。

「だから、今年が最後かも知れないなぁ」

 明るく笑ってみせようとして、失敗している。

 寂しさが隠せていない。

 けれど、がんばって予防線を張ろうとする姿が、いじらしく可愛く思えて。たまらず手を伸ばした。 

「俺は」

 彼女の方へ。

「俺は、来年もこうして透子とうこと一緒に花火を見たい」

 そうして触れた手を、ぎゅっと握り締める。

 いつのまにか、俺よりも小さくなっていた手。

 ドンッ ドンッ ドンッ

 花火が、打ち上がる。

 また、彼女の顔が明るく黄色に、赤色に、青色に、照らされる。

 驚いたように目を見開く彼女に、俺は言った。

 うるさい打ち上げ音に、届かない覚悟で。

「透子。俺は──……」


 ドンッ


 緑の花火が上がる。

 けれど、透子の顔が赤く染まるのを俺は見た。


 END.


 この話(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16817139555250538194)にもちらっと出て来ている二人を。

 本当は、上のお姉さんにカップに花火を描いてもらって喜んでる姿が可愛い、みたいな回想を入れる予定だったんですけど、入りませんでした!

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