第226話 これもまた青春(ロマンシス? 友情? 先輩と後輩)

「いやー、あの絵は本当、心洗われるようだったよね! この青春よ、永遠にってね!」

「ウンウン、ソウダネー」

「ちょっと澄佳すみかサン、棒読み!」

「そりゃなるよ。はい、全問不正解~」

「マジか!」

「いや、マジかって言いたいの、こっち」

 私は、藍花あいかに採点した彼女の数学ノートを返した。

「あれだけ丁寧に説明したのに全問不正解って舐めてんのかアンタ」

「私が澄佳サンを舐めたことなんて、色んな意味で一度も無いよ!」

「そういう誤解を招くこと言うな」

 藍花は、私の一つ下の後輩。

 我が陸上部では、テスト前一週間は、部活は休みで、みっちりとテスト勉強をやらされる。

 そのへんはどの部でも一緒だけれど、うちの部では上級生が下級生の家庭教師をするという謎の伝統がある。

 自分の勉強のかたわら、泣き付いて来た後輩の面倒を見るのだ。

 原則、一対一か一対二。

「見直して、何がわからないか聞いて」

「うぅ……うちの学校おかしいよぉ……文化祭と体育祭のすぐあとにテストとかって絶対、絶対おかしいよぉ……」

「そのへんは先生たち含めてみんな思ってるから」

「なら改善してよぉ」

「そうはならないのが学校ってところでしょ」

 うぇええぇん、と泣き真似をしながら、藍花はノートとにらめっこする。

「もうちょっと祭りの余韻を味わいたいよぉ。青春よ永遠なれって思いたいよぉ」

「これもまた、青春でしょ」

「こんなのはヤダ~」

 ぴぃぴぃ言う後輩を尻目に、自分の問題も解いていく。

 別に担当の先輩後輩が決まっているわけではないのに、自然と同じ組み合わせになるから不思議だ。

 藍花の文句をBGMに、自分の試験勉強をするのももう慣れっこだ。

 ……でも。

(本当はきっと、そうたくさんは残ってないんだろうな)

 愚痴を言いながらも懸命に問題に食らいつく後輩。それを横目に、勉強すること。

「……私は、特にヤじゃないけどね」

 むしろ多分。

「? 何か言いました?」

「うーうん。別に」

 これもまた、青春。

 私はこっそり微笑みながら、「わからないところわかった?」と聞いた。


 END.


 絵はこちらの(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16817139554697366219)。

 

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