第225話 永遠、と名付けて良いもの(OG。友情)

「わ……」

 母校の文化祭。美術部展示。

 私は、一枚の絵に吸い寄せられ、動けなくなった。


 この学校の中庭に遊ぶ、五人の少女たち。

 空は晴れ、木々の緑は瑞々しく、少女たちは朗らかに笑っている。

 春の陽射しの温かさが、彼女たちの笑い声が、肌に、耳に、今まさに触れているみたく。


『永遠』


 それが、この絵のタイトルだった。

 まるで、楽園のような光景だと思った。

 何の変わり映えもない、ただの母校の、中庭の光景だというのに。

 絵の具の匂いが充満するここに、緑と花の、甘く爽やかな香りが匂い立つようだった。

 友人たちとただただ日常を過ごして笑う。

 これを『永遠』と呼んでいいのか。

 それって、何て──


 ぼた、ぼたたた


 気付けば、泣いていた。

 というより、泣いていることに気が付いた。

 熱いものが、頬を何度も何度も通り過ぎる。


「お、お客様……」

 後ろから、美術部員であろう生徒が、ためらいがちに声をかけて来た。私の、ずっと年下の後輩。

「すみません、あの、私の絵が……」

「ああ、あなたの絵なんだ」

 私は微笑んだ。

 泣きながら、何とかがんばって上げた口角が、ちゃんと笑みの形をしていればいいと思う。

「違うの。感動、したの。いや、嬉しかったって言うべきかな?」

「嬉し……?」

「このタイトルが、『永遠』なのが」

 私と彼女の視線が交わった。

 私の言いたいことを彼女が理解し、彼女が理解したことを私は理解した。

「あ、サキ、ここに居た~……って、何泣いてんの!?」

「後輩ちゃんも吃驚してんじゃん!」

「ああ、ごめん。この子の絵が、あまりに素敵で、勝手に涙が」

「もー、アンタは本当に涙脆いんだから~。ごめんねー、吃驚したよね」

「いえ……」

 どやどやと入って来た友人たちに、彼女が控えめに首を振る。

「あのっ」

「なぁに?」

「皆さんは……その」

 彼女の聞きたいことを察して、私は大きく笑って答えた。

「そう。みんなここの卒業生で、友だち」

 涙を拭かれながらだから、何一つ、様にはなってなかっただろうけど。

「友だちっつーか、腐れ縁?」

「似たようなもんよね」

 そんな私たちを、彼女は眩しそうな目で見つめた。

 眩しそうで、嬉しそうで……希望をひとつ、見付けたような目で。

「──そうですか」

 それから、美しい微笑みを浮かべた。

「どうか、皆さんの一日が素敵なものでありますように」

 私たちも笑顔になり、そして口を揃えて返した。

「あなたもね!」

 薫風が私たちの間を通り過ぎていったような、そんな幻を感じた。


 END.


 絵は、彼女(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16817139554663545600)のものです。


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