第221話 黄昏の似合うあなただから(百合。先輩×後輩)
「ううむ、光の者」
「すごい、後輩の作品を読んで言う第一声じゃないね?」
二人でぶらっと母校を訪ねた際に貰った部誌を読んで、白山が言った。
今は、自分たちの住むまちの駅前喫茶店でひと休み中。
そこで、貰った部誌を読んでいたのだけれど。
「何、どの作品?」
「平山ちゃんの」
「僕まだ読んでないや。そんなに光なの?」
「光も光。私、浄化されて消えちゃうんじゃないかと思いましたもん」
「確かに平山ちゃんの作品は光属性のやつ多いものね」
「作品だけじゃないんですよ。あとがきが、また光の者で」
「どゆこと?」
ぺら、と
「この作品、『残響に啼く』を読んでインスパイアされた作品らしいんですよ」
「え? あれ読んでインスパイアされた作品が光属性なの?」
「そこなんですよ!」
『残響に啼く』は、僕たち文芸部員のほぼ全員が好きな作家さんの最新作だ。
創作賛歌と帯には銘打たれていたけれど、基本的に創作に関する闇がこれでもかと詰め込まれた闇鍋作品だった。
面白かったけど。僕も大好きだけど。
「あんな一歩間違ったら筆を折りかねん作品を読んで、光の作品を生み出せる……まったく、彼女はとんだ光の者ですよ」
恐ろしい、と白山が自分の二の腕をさする。
「その反応、村の鬼子に対するそれよ?」
「似たようなものでしょう。陰キャの多い我が部で光の子は鬼子に等しいですよ」
「平山ちゃん、気に入ってるくせに」
「鬼子を気に入るのもまた文芸部の特色では?」
「違いない」
矛盾しているようなことを喋りながら、僕は平山ちゃんの作品ページを開いた。
「けど、
「そういうの抜きにしても、面白い作品でしたよ」
「それは楽しみ」
そうして僕が読み始めてしばらく。
珈琲の匂いがただようほの暗い店内。焦げ茶色に統一された静かな空間の中。
あの、と白山の声が控えめに響いた。
「何? ハク」
人の読書中に、彼女が話しかけて来るのは珍しかった。
「改めて、何で私だったのかなって」
「ふむ?」
「有田さん、面白いもの、変わってるもの、綺麗なものがお好きでしょう。文芸部員なんて、変わり者の巣窟です。その中で、光の変わり者だって、残念美人だって居たのに、何だってこんなただただ陰キャの私だったのかなって」
「……このやりとり、前もしたね」
僕は笑って、以前のやりとりを思い出した。
あれは確か、クリスマス前のことだ。
白山が高一で、僕が高二で。
何でかは思い出せないけれど、放課後の教室で、白山と二人きりだった。
白山が、僕の教室に来たのだった。
そのときの用件は忘れたけど。
『有田さんは、私に同情してるんでしょうか』
『なんて』
夕陽に照らされた白山の横顔が綺麗で、『キレイだなー』と呆けて見ていたら、そんな一言。
吃驚した。
『いえ、誰ともつるまない私を見て、同じ途中入学組のよしみでちょっと憐れんでるのかと。だから、こうしてよく一緒にいてくれてるのかなって』
僕と白山は、この中高一貫校に高校から入って来た、いわゆる途中入学組だった。
『……白山さぁ』
僕は、綺麗な横顔に手を伸ばした。
『僕が、そんな善人に見える?』
手が、届いた。
思いのほか温かですべらかな頬に触れる。
白山は真顔で、ほんの少しだけ首をかしげたあと。
『見えませんね』
即答した。
『んー、そこはもうちょっと
『すみません』
けど、そうですか。
そう言って、白山はほんのり口角を上げた。
『そうですね』
良かった、と安堵したかのように。
その笑顔は、やっぱり綺麗で。僕は再度見惚れたのだった。
「僕は、『白山綾子だったから』面白くて可愛くていいなって思ったし、思ってるんだよ」
「……そうですか」
白山が、肩を竦めて笑った。
「そうですね」
あの日と同じように。
ほんのりと、安堵するように。
やっぱり綺麗な笑顔で、僕は今度は笑って「いいね」と言った。
手を伸ばし、その頬を遠慮なく撫でてやりながら。
END.
『残響に啼く』は、こちらで読んでいたお話(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16816927863360804218)で、平山ちゃんは、これを読んでいる子です。
有田先輩と白山はこちらの(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16816927862075186444)。
付き合って、お互いに高校を卒業して同じ大学に入学しています。
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