第200話 唐揚げのレタスは選ばれるか(百合? 片想い。社会人)

「人間関係どうなるかなんて、わっかんないよ?」

 和風居酒屋の午後八時半。

 店内はがやがやとうるさく、注文の声と笑い声が高らかに響く。

 奥まった半個室とは言え、喧騒からは免れない。

 だけど、そんな中でこそ、恋バナというものは盛り上がるわけで。

「意外とそっから急展開なんて起こり得るかも」

「うっそだぁ」

 誰にも話せない職場の上司への想いを、ほぼほぼ愚痴みたいにして垂れ流すこと一時間半。

 友だちが、業を煮やしたように言ったのだ。

「当たって砕け散れよ」

 と。

 砕けろどころでなく、砕け散れというところに彼女がいかにこの話題に飽きているかがわかる。

 その上で「人間関係どうなるかわからないよ」と来たもんだ。

「期待させたいの、砕けさせたいの」

「どっちでもいいよ、動きが欲しい」

「人の恋愛だからって」

「他人の恋愛ほど、無責任になれるもの無いよね」

 彼女は笑って、ビールをグッと煽った。

 私は恨めしそうに彼女を見ながら、レモンサワーをちびちび飲む。

「相手は高嶺の花だよ? 超美女、彼氏の噂だって聞こえて来たし。どう考えても私に勝ち目ないじゃん」

 もし女を選ぶとしても、こんな地味なモブ子を選ぶとは思えなかった。

 テーブルに視線を落とす。

 たくさんあった唐揚げは、残り二個。しなびたレタスの上で、今か今かとこちらを見上げている。

 レタスは、もちろん誰にも食べられない。

 それを知っているみたいにしなびている。

 自分を知っていることは、いいことだ。

「だからぁ、わからないじゃん。セオリー通りにとか、今まで通りにとか、行くかわからないよ?」

 友だちが、お通しのもずく──残りひと口──をズルルッと勢いよく吸って言う。

「私の友だちは、アセクでアロマだけど、セフレも恋人も複数持ちのゲイのポリアモリーと友情築いたりしてるしねぇ」

「……まったく正反対に思える」

「性格もまったく真逆っぽいよ。友だちは陰キャ寄りのクールだけど、件の彼は、バリバリの陽キャパリピらしいし」

「何処で出逢ったんだ……」

「ねー。不思議でしょ。けど、妙に話が合って気楽って友だちは言ってた」

 でもね、と彼女は、唐揚げをレタスでくるみながら笑った。

「やっぱり、その子も最初は件の彼と友だちになるとか、なろうとか、一切思って無かったんだって」

 彼女が、ぱくりと唐揚げのレタス巻きを食べる。

「だけど、今はそんな風になってる。……ね、何が起こるかわからないでしょ?」

 レタスがイーイ感じだわ、と友だちが満足げに言った。

「だから、行動した方が面白いかも、よ」

「うーん……」

 意外な話を聞いたけれど、本当に、私の身の上にもそんな意外性あることが起こるだろうか。

「……いっちょ、やってみちゃおっかな!」

「お!」

「もちろん、予防線は張りに張りまくって!!」

「……まあ、いいと思うよ」

 今は、酒の勢いを借りて言ってるだけ。

 けど、この勢いが十分の一でも明日の朝残っていたのなら。


 ちょっとくらい、動きを見せてもいいかも知れない。

 私は残りの唐揚げとレモンサワーを口に運んで、ちょびっとだけ、決意した。


 END.


 友だちの話は、この人(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16816927862277118046)のことです。

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