第188話 宇宙に浮かぶ綺麗な線(同棲百合)


「このチョコレートを作った人たち……いや、売ってる人たちも、いやいや、もう、共に食している人たちみんな! 倖せになって欲しい!! 未来永劫ってか、現在過去未来すべてに幸あれ!!」

「いきなり大きく出たわね……」

 目の前で感涙と共にチョコレートを食し、ネットの海を徘徊している同居人。私は彼女を見て、呆れを通り越して感動した。

 よくチョコレートひとつでここまで感動できるもんだな、と。

「まあ、確かにとても良いチョコだけどね、これ」

 アイシャドウのパレットを思わせる綺麗な箱に、これまたパレットのように並べられたカラフルなチョコ。チョコの中には、細かなパフやクッキー、ビスケットが詰まっている。

 何とこのチョコレート、自分で好きに選んで詰められるのだ。

 箱も、二種類入りから全種類入りまで選べる。

 つまり、自分好みのチョコレート・パレットが出来るわけで。

 それが、SNSでバズッた。

 主に、オタク(二次創作オタクから、一般的なドルオタなども含む)に。

 推し×推しイメージカラーのカップリングパレットや、推し×自分のイメージカラーパレットなど、好きに遊べるのが良かったのだと思う。

 そしてまた、そこからの派生で二次創作やら何やらが生まれるわけで……。

「神……」

 同居人がネットの海に浸りつつ、感涙しているのはその為だ。

「しっかし、未来永劫はわかるにしても、現在過去未来の過去って何……?」

「あ、何かね!」

 スマホから顔を上げて、同居人が言った。

「小説か、エッセイか、何で読んだかは忘れちゃったんだけど。時間って、過去から未来へ流れてるもんじゃなくて、同時に多次元的に、ぜーんぶここに存在してるんだって。物理学だかでそんな理論があるらしい」

「へえ?」

「だから、現在の祈りが過去に届くなんてことも、きっとあるよねって話だったんだけど」

 ひょい、と同居人が新たなチョコレートを手に取り、笑う。

「その考え方って、何か素敵だなーって思って採用してんだ」

「ふぅん……?」

「だってさ。『今』の私だったら、誰にもそれほど感謝されたり、倖せでありますようにとか祈られたりしてないかもだけど。『未来』の私だったら、もうちょっと成長して、誰かに感謝されたり、倖せを祈られたりしてるかも知れないじゃない? その光が、今の私にももたらされてるかもって考えたら、まだ何か、信じられそうじゃない?」

「そんなもんかねぇ」

「それに、今出会った人の未来の倖せしか祈れないっていうのより、全部倖せであれって祈る方が楽しい気がしてさ」

 あんまり理解は出来なかったけれど、同居人が本当に楽しそうだから、まあいいかと思った。

 それに。

「アンタのそういうところ、好きだよ」

「えへへ」

 誰かの(今回の場合、本当に見ず知らずの誰かまで含められている!)倖せを、その過去や未来まで含めて祈るなんて、素敵だと思った。

 自分にいいことがあったのなら、他の誰かにも。

 そう自然に思える同居人なのだから、きっと誰かから今だって祈られているはずだ。

 安寧と幸福を。

 もちろん、未来の誰かにも祈られているだろう。

「ま、『今』のアンタに関して、確実に一人、倖せを祈ってるやつが『ここ』にいるから、安心しなよ」

「……。もう」

 同居人が、頬を染めて俯く。

 今とだけ言ったけど、多分きっと『未来』の私も祈っている。

「私だって、アンタの倖せ、祈ってるんだからね!」

「はいはい、ありがとうね」

 こんな風に、誰かの未来や過去や今に、感謝と幸福と安寧を祈る世界線が、たくさんあるといいなと思う。

 それは無限にあるらしい宇宙を、きっと柔らかに美しく、彩るに違いないだろうから。


 END.


 チョコレートはこちらの(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16816927861816943922)お話の。でも普通に何処かに既にありそうだなぁ。

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