第184話 週末だから、仕方ない(ちょっぴり不運な女子高生)

 盛大にこけた。

 駅のホーム。ちょうど電車が来たところで、大勢の人、人、人。みんな急ぎ足。

 そんな中でずっこけて、鞄の中身をぶちまけた。

 教科書に、ノートに、スマホ、ペンケース、何とペンケースはきちんと閉まってなくて、シャーペンやらカラーペンやらもぶいまけられた。

 泣きたい。

 迷惑そうな顔で、みんな避けていく。

 ふ、踏まれないだけマシなんだ。きっと。

 自分に言い聞かせて、謝りながら落ちたものを拾う。

 あ、でもちょっと泣きそう。

 いや、ここで泣いたら流石に恥ずかしいし、迷惑かけときながらどうなんだって話だし。

 目に力を入れて、視界の潤みが進行しないようにしていたら。

「あの、これ」

「!」

「君ので、合ってる?」

 目の前にスッと差し出された定期入れに、叫びそうになった。

「わ、私のです!」

「そう、良かった」

 優しそうな顔のお兄さんが、ふわっと笑った。

「すみません……ありがとうございます」

「いえいえ。……金曜日だから、仕方ないよ」

「え?」

「金曜日、というか週末は、みんな疲れてるものだから」

 お兄さんは、残りの落とし物拾いも手伝ってくれた。そして最後にそう言って、去って行った。

 何故だろう。

 金曜日だから。週末だから。仕方ない。

 不思議と、心が軽くなった。

 そういう日も、そりゃあるよねって。

 私は、改めてきっちりチャックを閉めたバッグを肩にかけ、ふう、と大きく息を吐く。

 疲れてるんだから、のんびり行こう。

 そう思うとほんの少し、重い身体も、こけた恥ずかしさも、ちょっとマシになったような気がした。


 END.


 優しいお兄さんは昨日のこの人です(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16816927861648032008)。

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