第172話 流星と羽衣(薔薇。菓子職人×元塾講師)
「あ、流れた!」
今日の夜中。
流星群が夜空を駆けるという。
ちょうど明日は定休日だし、ベランダで少しだけねばってみましょうか、と言ったのが一時間前。
二人とも寝間着の上にフリースの上着を着て、ブランケットをぐるぐるに巻いて、ベランダに出た。
真冬のベランダは凍るように寒く、暖を取るため
それでも。
夜の帳をいくつもの星が駆けていく様は、見ものだった。
例え、少々狭い範囲の空であったとしても。
「綺麗ですね」
そう言って隣を見れば、
「はい」
にっこり笑顔とすぐ目が合った。僕は、むぅと唇を尖らせる。
「今、ずっと僕の方を見ていたでしょう」
「バレました?」
「せっかく待ってたのに。流れ星、見なくていいんですか」
「そうですねぇ……」
トーリーさんは、持っていたカップをベランダの室外機にそっと置くと、僕の方へ向き直った。
「私にとっては、颯太さんが流れ星ですから」
「ぼくが?」
「はい。……私のほしいものをぜんぶ、ぜんぶ、くれました」
巻いていたブランケットを広げて、僕を抱き寄せる。
ふわっとトーリーさんの匂いが僕を包む。
「いっしょにご飯を食べてくれる人。私のとなりに居てくれる人。私のお菓子を食べておいしいと笑ってくれる人。……そして」
見上げれば、すぐ近くにある眩しい笑顔。
「私と想い合ってくれる人」
こつん、と額と額が合わさった。
寒いのに、温かい。
「あなたが、私の願いをかなえてくれました。ぜんぶ」
だから、あなたが私の流れ星なんです。
トーリーさんは、子どもみたいな顔で笑って言った。
「……流れ星だったら、すぐ何処かへ行っちゃいそうだね」
「……どこかへいっちゃいますか?」
笑顔が、途端に不安げな色に曇る。
僕はそれが可愛くて、同時に可哀想で、慌てて「いいえ」と首を振った。
けれど、すぐにパアッと表情を明るくするトーリーさんが癪でもあって。
「あなたが、僕をきちんと捕まえていてくれたら、ですけど」
と生意気を言って、彼にもたれた。
彼は低く笑って、
「じゃあ、ずっとつかまえときますね。羽衣は、ずっとずっとかくしときます」
「焼いたりは、しないんだね」
「あなたの大切なものを、勝手にやくなんてしません」
空想の話でも律儀なトーリーさんが可笑しくて、愛しくて、僕はその頬にえいやとひとつ、キスをした。
END.
こちら(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16816927861344943862)の二人です。
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