第168話 桃の節句を待つ季節(お姉さんとオネエさん)


「ただいま~……あ」

「おかえりー。フフッ、気が付いた?」

「そっか。もうそんな季節か」

 帰ったら、玄関の棚の上に雛人形が飾られてあった。

「やっぱりこの季節は玄関が華やぐわね。いいわあ」

 そう言って、ジョセフィーヌが笑った。

 雛人形は、私が実家から持って来たもの。

 本当は持ってくる気は無かったのだけど、ジョセフィーヌがどうしても、というので持って来た。

 雛人形を飾るのが夢だったという。

 私の雛人形は、お内裏様とお雛様だけしかいないし、サイズも小さい。それこそ、玄関にちょこんと飾れる程度。

 それでも、この季節になるとジョセフィーヌは、うきうきと雛人形を飾る。

「あれ、今年は梅なのね?」

 いつも雛人形の周りには造花の桃の花が飾られてあった。が、今年はそれが紅白の梅になっている。

「ああ、うん。そうなの」

 ジョセフィーヌが、ちょん、と花に触れて言った。

「二月なのに、梅を全然見ないのもなーって思ってね。二月の間は梅の花にしようかなって」

「なるほど」

「三月になったら、桃の花に変えるわよ」

 楽しそうに話すので、私まで笑顔になって来る。

 私は、今まで桃の節句が好きじゃなかった。

 女の結婚を前提にした行事って感じがして。

 だから、お雛様を綺麗だと思っても、そこには後ろめたいような、何かもやもやした感情がくっついて来た。

 そうなるともう、好きじゃない、としか言えなかった。

 けれど。

「本当に、綺麗ねぇ」

 こうして、ジョセフィーヌがただただ雛人形を愛でているのを見ると、不思議とホッとした。

 嫌な気持ちが、するするとほぐれて消えた。

「そうだね」

 お雛様はお雛様として、愛でていいのだと。

「綺麗だね」

 何も関連付けず、ただ健やかな気持ちで飾っていいのだと。

「当日は、甘酒にひなあられに、ひしもち、スイーツ三昧するわよぉ」

「ふふ、贅沢」

 私は今やっと、桃の節句を楽しめている。


 END.


こちら(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16816927859473639703)の二人です。

何やかんやあって一緒に暮らしているようです。

きっかけのお話もまた書けましたら。

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