第163話 やさしいあめ(男女。喫茶店のマスターと失恋女子)

 彼氏にフラれた。

 よりによって、大学近くの、よく行く喫茶店で。

 捨て台詞は、『やっぱ、女として見んの無理だわw』。

 やっぱって何だ。てか語尾に草生やしてそうなその言い方は何だ。

 了解と答えれば、「じゃ、俺、5限あるから」と言ってさっさと帰った。

 いや、帰るのはいいんだけど、せめて自分の分の伝票は持っていけや。何でフラれた私がてめぇの分まで払わにゃおえんのだ。

 駄目だ、悔しくて泣けてきた。

 自分、見る目無さすぎ。

「飴ちゃん、いる?」

 カウンターの奥でずっと成り行きを見守っていた店長が、しずしずと近づいてきて、エプロンから飴ちゃんを出した。

「……どーも」

 恥ずかしいけど、とりあえず貰っとく。

 こういうときは、人の優しさが身に沁みる。

「まあ、なんや、あれや」

 店長は、顎に手を当て、言った。

「うちでバイトせーへん?」

「え、何で?」

 斜め45度上の提案に私は素でツッコんだ。

「や、うちの店、色んなお客さん来はるし。新しい出会い探すのに、ちょうどええんとちゃうかおもて」

 ずっと募集してんねんけどなかなか応募が無くてなぁ。

 店長が、困ったように眉を下げて言った。

 私は少し悩んでから、

「……やります」

 答えた。

 お客さんのままだったら、何となく気まずくて、この店に寄り付かなくなりそうだったから。

 お気に入りのお店なのに、それは惜しい。

「ほんま? 助かるわー。ほんなら、よろしゅう頼んます」

 店長が明るく笑う。私もつられて笑った。

 何だか少し、悔し涙が癒されたような。そんな気がした。

 気のせいかも、知れないけれど。


 END.


.......


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