第156話 夕暮れ涙(片想いの子とその友だち)


教室に入ると、そいつは自分の机に突っ伏していた。

「先輩の見送り、行かなくていーの」

「……」

「部のみんな、行くみたいだけど」

「行かない」

ぐずっ、と鼻を啜る音。

「何で」

今行かないと、もう二度と会えないかもよ。

ちょっと意地悪だけど、そう言った。

真実でも、あるし。

この子に、後悔だけはして欲しくなかった。

「だって」

「うん」

「わたし、ぜったい、言っちゃう」

ずびびっ

大きく鼻を啜って、

「行かないでって、言っちゃう……っ」

彼女は言った。

「だからっ、行かない……っ」

「……そう」

大好きな人には、輝かしい門出を。

自分の儚い願いは、置いといて。

それが、この子の愛の、精一杯の矜持なのだろう。

「がんばったね」

私は、黙って頭を撫でてやる。

しばらく、教室には小さな泣き声が響いていた。

夕焼けは、真っ赤で恐ろしい程、美しかった。


END.


.......



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