第153話 それを運命と呼ぶのか(男女いとこ同士。Not恋愛)
昼休みの教室。
「そりゃあ、私と
年上の従姉に猛アタックし続ける友人に、少し興味が湧いた。
だから、どうしてそんなにも真っ直ぐにアタックし続けられるのか聞いてみた。
それで返って来た答えが、これだ。
「名前……一三と
別の友人が問い返す。
「そう!」
「そもそも、何でアンタらの名前の漢字、数字なの?」
「一三ちゃんの誕生日が、一月三日だから」
えっへん、という文字が背中に見えそうなくらい、堂々と胸を張って一二三が答えた。
「へえ」
「で?」
だが、それだけではこちらには伝わらない。
え? おわかり頂けない? みたいな顔をされても困る。
「何で、誕生日と同じ数字を名前に付けてんの?」
「あ、そゆこと?」
それ以外に何がある。
私ともう一人の友人は、思わずジト目になる。
「えっとね、おじちゃん……一三ちゃんのお父さんね……数字を覚えるのが、すごく苦手なのね。それで、娘の誕生日を忘れないために」
「日付をそのまま、名前にしたと」
「そう!」
五月十七日とかだったら、どうしたのだろう。『ことな』とか、無理くり付けたのだろうか。
「それで、何でアンタまで数字なのよ。てか、アンタ別に誕生日、一月二十三日とかじゃないじゃん」
「これにはね、一三ちゃんが関係してるのよ」
フッフッフッと一二三が不敵に笑った。
「うちのお母さんがね、一三ちゃんの名前をいいなって思ったから、生まれて来る私の名前も、数字にしようってなったの」
だからこれは、運命!
高らかに一二三が言って、
「こじつけじゃん」
友人が冷静にツッコんだ。
「いいの! 運命なんて所詮、全部こじつけなんだから。こじつけたもん勝ちなの!」
「いや、アンタがそれ言うの」
私もツッコんだ。
ちなみに、『ひふみ』じゃなくて『いろは』なのは、ちょっと凝った読み方にしたかったかららしい。
「だから、私のこの恰好良い名前は、運命なわけよ」
読み方が特殊だと子は苦労するみたいなことをたまに聞く。
けれど彼女は、それを受け入れかつ堂々と「恰好良い」とか「好きな人との運命」とか言ってのける娘に育った。娘が彼女で良かったね、一二三のご両親よ、と、しみじみ思った。
しかし、名前から関連付ける運命か。
そして、運命はこじつけたもん勝ちか。
お昼休みの教室の喧騒。
下らないガールズトークに、私はときたま真理が隠れていると思う。
「そんなわけで、私たちも運命だと思ったのよ?」
「……いきなり人んち来て、何言ってんだお前」
同い年の従弟・
学校帰り。私はそのまま、彼の家に突撃した。
勝手知ったる何とやら。叔母に適当にあいさつをしたら即彼の部屋へ向かって、今に至る。
彼の部屋は、その鮮やかな名前に反してグレーベースの地味なモノ。
だけど、そこが落ち着く。余分な家具も無い。装飾も無い。ここまで名が体を表していないのが、いっそ好ましい。
「いいじゃない。同じアヤリ同士。どう? 結婚しない?」
「しない。……お前、本当何度目だよ、この話題」
私たちは同い年で、誕生日もひと月しか違わない。
何よりも名前が同じ『あやり』だ。
漢字は違うけれど。
私は、彩里と書いて、あやりと読む。
「何度だって言うよ。そっちがその気になるまで」
「だーから。俺は恋愛する気が無いんだって。すなわち、結婚する気も無いんだよ」
「いいんじゃない? 恋愛の無い結婚。大いに有りだと思うよ」
お互いの了承さえ得られれば、それでいいのだ。
結婚は、所謂『契約』なのだから。
私だって絢理にそういう興味は無いし、他の人に対してもまったく無い。
「私、面倒くさい親戚付き合いとか一切したくないの。けど、うちの親は『女の子は結婚しないと許さない』って価値観だし。それなら、よく見知った身内で済ませるのが楽じゃない?」
「そういうドライなところ、俺は嫌いじゃないけども」
絢理はそう言いながら、頭を掻いた。
「俺は、そもそもこの家から出たいんだよ。大学だって遠い地方のとこ行く気だし。就職だってそっちでするつもりだし。けど、お前と結婚なんざしたら、余計ガチガチに『家』にからめとられるじゃん。無理」
「だったら、私もその地方に行けば良くない?」
二人でエスケープしよ、と言って笑えば、絢理は微妙な顔になる。
「お前なあ。自分を溺愛してる親父さんをほっぽりだせんのかよ」
「え? 出来るよ? だって私、お父さんにそこまで興味無いもの」
大事にしてくれていることには感謝するし、ここまで大きく育ててくれたことに恩義が無いではないけど、それはそれ。
私の興味を引くタイプの人間でも考え方でも無い人だから。
私と疎遠になることで悲しいと言われたところで、「ふぅん?」としか言いようが無い。
「お姉ちゃんもいるし、別にどうとでもなるよ。お姉ちゃんはああいうひと大好きだから、ちょうどいいんじゃないかなぁ?」
私は、お父さんが困ってたら、そのとき自分が出来ることで最善は尽くすだろうけど、お父さんの望むようなこと……例えば、どこにいようと、どんな夢があろうと、それを諦めてお父さんの近くにいて、甲斐甲斐しくお父さんのお世話をするみたいなこと……は、する気が無い。
というより、多分出来ない。
「お前って、愛はあるけど、情は無いタイプだよな」
「それをわかってくれてるから、結婚相手には絢理が一番なんだよねぇ」
私がしみじみ言うと、絢理はため息を吐いた。
「……結婚しないって方向性でもっと抗ってみろよ、お前も」
「それがまた面倒くさいんだなぁ」
「自由を勝ち取るには、多少の面倒くささは諦めろ」
絢理は言って、シッシッと手を振った。
もう帰れってことだろう。
「いいじゃん。運命ってことにして、楽するのもさ」
「その楽に俺を巻き込むなよな」
と言いつつ、会いに来るなとは言わない。
絢理のそういうお人好しさが好きだ。
普通の、親戚のそれとして。
「まあ、楽に流されたくなったら言ってよ。いつでも大歓迎だから」
私は鞄を持って立ち上がった。
「……適当に考えとくよ。手札の一つとして」
面倒くさそうに、絢理が言う。
私は、ニッと笑って部屋を出た。
END.
一二三と一三は、このへん(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16816700427603819908)のお話で出ています。
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