第112話 諦めた(幼馴染男女、告白)


「あなたが、好きです」

「へ……」

 三歳年上の幼馴染に、告白した。

 黒髪が綺麗な、切れ長の眼が美しい、僕の自慢の幼馴染。

 苦節十七年。初めて会った四歳のあの日から好きだった。

 絶対、絶対に大きくなったら告白しようと思っていたのだけれど。

「……すみません、本当は、身長を追い抜いてから告白しようと思っていたのですが」

 彼女は、すらりとスレンダーで背が高く、一七〇センチある。

 大して僕は、

「成長期が……っ、終わってしまったらしく……っ」

 身長一六三センチ。高校一年生のときから変わらない。一ミリも。

 悔しい。せめて、同じ高さに並び立ちたかった。

 綺麗な彼女が自慢出来る恋人になりたかった。

 子ども扱いから、脱したかったけれど。

「高校一年生から五年経っても身長が伸びなかったので、潔く諦め、告白することにしました。改めて好きで……、!?」

 玉砕覚悟の告白は、しかし、抱き着いて来た彼女によって遮られた

「遅いよ、バカ」

 耳元で、彼女が囁いた。

 ふわりと視界に揺れるさらさらの黒髪。爽やかで甘い、良い香り。

「ずっと、待ってたんだよ?」

「……すみません」

 柔らかく、温かな感触は、幼いころ以来か。

 バクバクと鳴る心臓、本当に? と疑り深い脳みそを黙らせて。

 僕は、恐る恐る彼女を抱き締め返した。

「お嫁に貰ってくれたら許す。なんちて」

「!」

 くすくすと笑う彼女に、僕は、小さな頃から描いていた夢を当てられて気がしてドギマギした。

「ま、待ってて下さい!! 就職したら、すぐにでも!!」

「あはは、そんな慌てなくてもいいよーぅ。これからは、一緒なんだから、ね?」

 一緒。

 その甘美な響きに、

「……はい」

 僕は暫し、酔いしれた。


 END.

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