第110話 おやすみのお茶(同棲男女。付き合ってる?)
作業も大詰め。
今夜も眠らないぞ、と決めた矢先。
同居人が持って来てくれたお茶を飲んだ瞬間だった。
「!?」
まず、ぐら、と視界が揺れた。
そして、頭の芯が痺れるような、重くなっていくような感覚。
まずい。
「な……んか、いきなり眠……っ!?」
「ふん。効いたようだな」
バッと同居人を見れば、しれっとした顔で、とんでもないことを言った。
「ま、まさか今飲んだお茶……!?」
「ゆっくり寝ろ」
「そんな……あした……納、期……」
やばい、やばい。
あとちょっと、あとちょっとで終わる、の、に──……
そこで、私の意識は途切れた。
※
「寝たか」
机に突っ伏す寸前に、何とかカップを取り上げることに成功した。
安全な位置……入り口付近の棚の上……にひとまず、カップを置いた。
机の上にも、床にも、彼女の作った子ども服が並んでいる。
ユーチューバ―だったかとコラボした服……と言っていた気がする。
抽選で何名様に当たる、みたいな企画だったはずだ。
「睡眠薬なんて、飲ませるわけないだろ」
彼女に持って来たのは、普通のハニージンジャーティーだ。
単に、飲んで気が緩んだ瞬間に眠気が来ただけだろう。
何徹したんだ、こいつ。
「明日、少し早く起こしてやるか」
よいしょ、と抱え上げて、ベッドに連れていく。
「寝た方が上手くいくって言ってたのは、どこの誰だったって話だよ、まったく」
昔、彼女が試験前の俺に言った科白だった。
彼女は、試験前だろうが眠くなればちゃんと寝ていたのにな。
それでいて、やるときはやる奴だった。
ちら、と作業机の上を見る。
素人目には、ほとんど出来上がっているように見える服。
こいつの性格上、徹夜を選んでラストスパートをかけようとしていたから、多分、残る工程は少ないはずだ。
寝てからブーストをかけた方が早い。
「おやすみ」
俺は、布団をかけてから、傍に置いてあった目覚ましをセットした。
明日は、俺も早起きするか。
目覚ましより数分早くスマホのアラームをセットし、部屋を出た。
彼女のラストスパートを最後まで応援してやるのが、寝かしたやつの責任だろう。
どんな朝ごはんを作ろうか、と考えつつ、俺を速やかに自分の部屋へと戻った。
END.
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