第109話 心地好い君の声(同棲男女)


 テレビ画面で、恐竜が大口を開けている。

『キシャアアアアッ』

「あああああああ!!!」

 隣から、悲鳴が上がった。

 映画の中の人物たちの悲鳴よりも大きい。

 僕は、画面よりも隣を眺める。

 うん、いい顔をしている。

 登場人物たちと同じ顔。すごいなあ、その場に居るみたいだ。

 僕は彼女とは逆に、楽しく笑っていた。


 ガタンガタタンッ


 ちらっと見た画面では、恐竜たちが子どもたちを探してうろうろしている。

「無理無理むりむりむり……」

『キュェアァァァッ』

「ああああああああ!!!!」

 見つかった子どもたちと同じように、彼女も絶望の声を上げた。


「つ……疲れた……」

 見終わったあと、彼女はぐったりとソファーに倒れた。

「お疲れ様。あれだけ叫んでたら、そりゃ疲れるよねぇ」

 はい、と水の入ったグラスを渡したら、彼女は、小さな声でありがとうと受け取った。

「何か、いつもごめんね、騒がしくて……」

「家で観る醍醐味だから構わないよ。それに」

 僕も自分の水を飲みながら言った。

「君の悲鳴が聞きたくて見てるんだし」

「……そういうとこ、ホント、引く」

「あはは、引いても別れないでいてくれるとこ、好きだよ」

「どーも」

 彼女は、嫌そうに言いつつも僕にもたれて来た。

 僕は、上機嫌に彼女をギュッと抱き締めた。

 

 END.

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