第87話 みんな、推しがプリントされたスイーツどうしてる?(文芸部。わちゃわちゃ)
文芸部寮一階和室。通称、部室。
「……推しのアイシング・クッキーやマカロンを食べる気持ちってどんな気持ちなんです?」
「「「え?」」」
夢(通称・おかあさん)の問いに、写真撮影をしていた僕ら三人……僕、藍、彩の動きがピタッと止まった。
僕らの前には、大きな机。
そこには、我々が今日買って来た推したちのアイシング・クッキーが、ぬいぐるみやアクスタともども飾られている。さながら、祭りの日の祭壇の如く。
言わずもがな、今の僕らの被写体だ。
「いえ、いったいどういうファン心理をターゲットにしてる商品なんだろうな、と気になりまして」
「んー。言われてみれば、どういう気持ちなんだろね?」
僕は、いったんスマホを下ろして首を傾げた。
「実際食べるときは、勿体ないなーって感じするし」
あれ、割らなきゃいけないもんなぁ……と絶賛祭り上げられている推しのクッキーを見ながら遠い目をする。
「そうか? ワシはわりとこう、パクッといけちゃうぞ」
「マジで?」
僕、躊躇しちゃう。藍は強いなあ、と思っていたら。
「可愛いものを見るとしゃぶりたくなるから……」
「ごめん、それどういう心理?」
「わかる」
「わかるの?」
即答した彩の方を思わず振り返る。
「推しが自分の体液に塗れるかと思うと、背徳感でドキドキしちゃうよね」
「言い方。二人とも、それは一体どういう感情なんだよ」
「「んんー……」」
僕が問うと、二人は揃って首を傾げてから、
「独占欲?」
と彩が、
「食べちゃいたいくらい可愛い、みたいな?」
と藍が、答えた。
「どっちが健全か、ちょっと判断に迷いますね」
「あれ、これそういう質問なの?」
「そういう殿ちょの『勿体ない』って気持ちは何なのさ?」
「あれじゃね?」
ピッと藍が指を立てる。
「比ゆ的に言えば『花を散らすのが勿体ない』みたいな」
「え、殿ちょ処女厨? 引くわ」
「ちっげーよ! ただの貧乏性だわ!」
「それもそれでどうなんですかねぇ……」
おかあさんが、しみじみ言った。
とりあえず、出た結論は、
「人それぞれ。推しの愛で方は星の数ほどある」
だった。
「割と無難で面白味のない結論になったな……」
「真実って、そういうものじゃないの?」
「真実て」
「ところでこれ、いつ食べるんですか?」
「「「迷ってる」」」
とりあえず、この手のものの食べ時を知りたいと思う今日この頃だ。
END.
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