第61話 寒くて温かい(薔薇。幼馴染大学生)

※『近くて遠い』(https://kakuyomu.jp/works/16816452220371917465/episodes/16816452220417068053)『お試し恋愛!』(https://kakuyomu.jp/works/1177354054921243863/episodes/1177354054921244443)の兄二人(唯行×公彦)。

この話単体でも読めます。


 十一月も下旬。夕方ともなると、古都の冷え込みはぐっと強くなる。

「へっくし」

 公彦あきひこが、くしゃみを一つしてからぶるりと身体を震わせた。

「お前な……そんな薄着で出て来るから」

 唯行が、呆れたように言う。厚手のジャケットにマフラーも巻いている彼と違い、公彦はジャケットを一枚羽織っているだけだ。

 大学からの帰り道。今日はお互いに四限目までの日で、一緒に帰ることにしていた。

「うーん。やっぱり京都は寒いね。ちょっと舐めてた」

「わかってたことだろ」

 唯行は、しゅるっと自らのマフラーを取ると、

「ほら」

 公彦に差し出した。

「え、いいよ。ユキの方が寒がりなんだし」

「お前は気管支弱いんだから付けとけ」

 そう言った矢先、

 へっぶし

 唯行も盛大にくしゃみをかます。

「……やっぱり、ユキがつけときなよ」

 へっくょん

 続いて、公彦も。

「……」

「……」

 互いに顔を見合わせる。

 と。

「そうだ」

 公彦が、何か思い付いたのか、目を輝かせた。

 そして、ひょいと脇道に入っていく。

「おい」

「こっち。ちょっと寄り道」

「早く帰った方が良くないか?」

「ちょっとだけだから」

 すたすたと進んでいく公彦に、唯行はとりあえずついていくことにした。

「ここは……」

「ちょっとだけ、待ってて」

 公彦が、意気揚々と入って行った店は、服飾雑貨の店だった。彼は店の奥へと入って行ったが、唯行はそこまでついていかず、入口あたりのものを眺めることにした。和小物やアジア風の小物を取り扱う店らしく、それらしい紋様の入ったスマホケースや鞄、財布などが所狭しと置いてあった。漂う良い香りは、白檀か何かのお香だろうか。

「はい!」

 それらを何とはなしに眺めていると、奥から公彦が戻って来た。すっと袋を手渡され、首を傾げる。

「これは……」

 店を出て、中身を確認した。

「ちょっと早めのクリスマスプレゼント! 値札は切ってもらったから、今から使えるよ」

「スヌード……?」

 中から出て来たのは、深い藍色のスヌードだった。

 夕焼けが夜色に染まっていく、ちょうど今ぐらいの時間の空と似ていた。

「うん。もともと、クリスマスに贈ろうって目星つけてたやつだから。今でもいいかなって」

 だから、今日はこれ借りるね。

 唯行から手渡されたマフラーを、公彦は丁寧に巻いた。

「……ありがとう」

「どういたしまして。うん、似合ってる」

 そう言って、嬉しそうににっこり笑う公彦を、唯行は心底愛おしいと思った。

 一瞬だけ、彼の手をぎゅっと握って離す。

「クリスマス、俺も考えてるやつあるから。待ってろ」

「うん」

 待ってる。

 擽ったそうに言って、公彦は、唯行のマフラーをそっと愛おしげに撫でた。


 END.

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