第30話 激エモな関係性、あるいはいとあはれな縁(ヘテロマンス気味。高校生男女。not恋愛)
武田学院文芸部部室。
和室の部室で、二人の部員が机にもたれながらだらだら話していた。
「女ってさ、ロマンシスとかシスターフッドみたいなのって憧れる?」
男子部員・榎木が、ふと思い付いて問う。
「それって、自分がそういう友情を誰かと築きたいかってこと?」
女子部員・椎名が、小首を傾げた。
「そうそう」
「そりゃあもう」
椎名が、固く拳を握りしめ、言った。
「めっちゃくちゃ憧れるよね! オーシャンズ8のルーとデビーとか、ゆるキャンの恵那ちゃんとリンちゃんとか、往年の名作で言えばやっぱり祐巳さんと由乃さんと志摩子さんの三人とか……」
一息である。
「あれ、リンとなでしこじゃないの?」
「あそこは最早百合かなって」
「なるほど……」
榎木は、深く頷いた。
「阿吽の呼吸、いざとなったら助けてくれる安心感と自分も駆けつけるぞって強い気持ち、下らないお喋りがたまらなく楽しい……」
うっとりと椎名が言う。
「そんな関係性、誰だって欲しいでしょ。みんな、誰かに背中を預けたいもんよ」
「やっぱり女もそういうの理想なんだぁ」
「理想だから、逆に少年漫画の男たちにそれを求めたりするんじゃない? まあ、少女漫画でも何でも、探せばあるけどさ。ロマンシスとかシスターフッド」
椎名が、手のひらを榎木の方へ向けた。
「そういう男はどうなの?」
榎木も、グッと拳を握り締めた。
「そんなん、憧れるに決まってるべ? オーシャンズシリーズは言わずもがな、ジョンとシャーロックとか、元祖も元祖って感じだよな。五条と夏油の高校生編も熱いしなー。あ、あとゴンとキルアも熱い!」
「やっぱり、背中預けられるのが?」
「それもいいし、あとはこう、ツーカーのとことか、信頼感がいい! あんな信頼のおけるダチがいたら最高じゃん……最高の安心感じゃん……」
「わかる……わかりみが深い……」
椎名の首が、深く深く縦へと振られる。
「やっぱりいいよなー。こう、恋愛とはまた違うこの……」
「うんうん。クソデカ感情とひとくくりにしちゃいけないんだけど、してしまう」
「エモいっつーか」
「昔風に言うなら、いとあはれ」
「いとあはれ……感慨深い……」
二人の視線が遠く遠く、ピリオドの向こう側あたりまで飛ばされたところで、彼らは我に返った。
「……ま、現実、なかなか難しいけどね」
マウンティング取られたりね……。
と、別の意味で遠くを見ながら椎名。
「そらそうだよな……」
好きな女子を言いふらされた挙句本人にバレたりな……。
こちらも別の意味で遠くに意識を飛ばして榎木。
「ま、フィクションの中だけでも救われましょうや」
「そうだねぇ」
二人の気持ちが、フィクションに落ち着いたところで。
「ちはーす。……あっ、榎木~」
第三の人間・文芸部部長樫木が、部室に入って来た。
「お前、原稿出したって言ってたけど何処にも見当たらんかったぜー」
「マジかよ!?」
ギョッとした顔で榎木が、彼を見る。
〆切は、明日だ。
「マジマジ~。今日の昼に確認したけど、完成原稿入れの
「うわ、じゃ何処だ……さっきファイル見たけど何にも無かったし……」
「あー、あれじゃない?」
椎名が、原稿入れ、と書いた抽斗の隣にある黒い箱を指差した。
「前の原稿入れに入れた」
原稿入れは、先月から新しくされたものだ。
「それだー!!」
榎木が叫んだ。
「確かに、黒い箱に入れた記憶がある……!」
「アンタ前の号でもやってたもんね」
「というか、そもそも白い抽斗に入れた記憶が……??」
「そりゃ、前の号の奴、私が入れ直したんだし」
「マジか~。さんくす~」
「やりかねないなーって思って」
「じゃ、今月号もしといてくれよ~」
「無理。だって、私が出したとき、アンタまだ書いてるって言ってたし」
「そーりゃ確かに無理だなー!」
あっはっはっはー。
二人が、笑い合う。
そんな二人を尻目に、樫木が黒い箱を確認すると、確かにそこには榎木の原稿が。
「……」
二人を振り返って、
(いいコンビだなぁ……)
樫木は、ほのぼのと思った。
END.
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