第13話 キスの話(百合。お試し恋愛!の主人公二人)

 *こちら(https://kakuyomu.jp/works/1177354054921243863)のお話の二人の、その後の話ですが、単体でも読める…と思います。

 幼馴染同士でお試し期間を経て、付き合うことになった二人のお話です。


 五月。中間テストも終わって、平和なある日曜日のこと。

 今日も今日とて、莉音は陽火の部屋に遊びに来ていた。

 いつも通りのお休み。しかし。

「はーちゃんっ、あの! キス、どう思うっ?」

 今日は、少し様子が違った。

「……と」

 莉音の真剣な眼差しに押され、陽火は口を開いた。

「それは、一応聞くけど魚のキス……じゃ、ない方の?」

「じゃない方の」

 莉音が、こっくりと頷く。

「ちなみに、私はお魚のキス、好きだよっ」

「奇遇だな、アタシもだ」

 天ぷらが好きだな、と陽火が言って、美味しいよねぇと莉音が言った。

「……」

「……」

 そして、しばしの沈黙。

「で」

「うん」

「……ちゅー?」

「ちゅー」

 真顔で莉音が首を振る。

 年下の幼馴染兼恋人は、どうやら真面目にキスについて考えているらしかった。

「お兄ちゃんに、聞いてみたんだけど」

 莉音の爆弾発言に、陽火が吹いた。

「き、聞いたのか……?」

「このあいだ、帰って来た時に」

 莉音の兄は、陽火の兄と付き合っている。

 お隣同士で、それぞれ付き合っているのだから面白い。

 ちなみに、兄たちは少し遠いところの大学に入学したため、二人とも家を出ていた。

「で……?」

 何て?

 陽火は、ごくりと唾を飲み込んだ。

「『雰囲気で』って」

 雰囲気。

「あの二人は雰囲気で初ちゅーしたのか」

「あ、初キス自体は事故で小学校の時にとは言ってたけど」

「事故で小学校のとき」

 何それ気になる。

「でも、その雰囲気がわからないなあと思って」

「そうだなぁ……」

 陽火は、うーんと唸ってから。

「とりあえず、今は何か違う気はするな」

「だよね」

 莉音も苦笑した。

「ところで莉音は、どう思ってるんだよ?」

「私は……」

 彼女は、少し困ったように首をかしげ、

「その、出来たらいいなって……」

 えへへ、と微笑んだ。

 はにかんだその笑顔は、何処か恥ずかしげで。


 きゅきゅきゅーん!


 陽火の胸が高鳴った。

「なるほど……雰囲気ね……」

「はーちゃん?」

 陽火は、おもむろに手を伸ばして、莉音の頬に触れた。

 それから。


 ちゅっ


「!!」

 柔らかな頬に、キスをひとつ。

「……今は、とりあえずほっぺで」

 陽火は言った。

「……」

 こちらも照れで頬が朱い。莉音の胸も高鳴った。

 可愛いなあ、嬉しいなあ。

 そんな気持ちが、彼女の胸から零れ出る。

「えへへ、ありがとう」


 にこっ


 それが、可愛らしい笑顔に乗った。

(唇でも、良かったかな)

 と陽火が思ってしまったのは、まだ彼女だけの秘密だ。


 END.

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