第12話 一生忘れないでいて(親友同士。ややロマンシス)


 卒業式の日。

 誰もいなくなって教室で、あいつと二人。机に行儀悪く座って、空を眺めていた。

 すっきり晴れた、何処までも透き通るような美しい青い空だった。

「例えさぁ、一生これから会うことが無くってもさぁ」

 出し抜けに、あいつが言った。

「この空の綺麗さは覚えてよーぜぃ」

 スカートから突き出た足を、ぷらぷらと揺らしながら。

「何だお前、死ぬのか」

「いや、死なないけど」

「じゃあ、何で」

 私も、足をぷらぷらさせていた。

 この紺色のスカートも、今日限りで卒業だ。

「だってさ、今日卒業式だったじゃん」

「だったねぇ」

「うちら、進路違うじゃん? や、それでも遊ぶ気満々だし、ずっと仲良い自信もあるけどさ」

「……照れること言うなよな」

「ガチ照れじゃん」

 卒業証書の入った筒でつつかれたので、お返しに同じものでつつき返す。

「でもさ」

 それを筒で受け止めながら、

「未来なんて、わからないじゃん?」

 あいつは言った。

「仲良いままでもさ。忙しさとか、もしかしたら病気とか、海外行っちゃうとか、何か色々あって、このまんまの二人うちらじゃいられなくなるかも知れないじゃん」


 ──未来は。


「だからさぁ、約束。これだけは、約束しよ」


 ──遠くて、何も見えなくて。私たちはまだ何者でもなくて、可能性ばかりって言うけど、それってつまりは未知で、何もわからないってことで。


「今日のこの、どうしようもなく綺麗な青空だけは、一緒に一生憶えとこ」


 ──不安でしょうがなかった。


 それでも、アンタは。

「……いいよ」

 『絶対ずっと友だち』とか『毎月逢おう』とか、そういう何かを固定するような、確かそうに見える『だけ』の約束は、しないんだ。

「しよう。約束。……この空を、ずっと憶えとく」

 それよりも、覚束ないけれど、未来にほんの少し残りそうな小さな芽を選ぶ。

「……良かった」

 ニカッと笑って、そっちを選ぶ。

「約束」

 どちらからともなく差し出された手。小指が一瞬固く結ばれて、すぐに離れて行った。


 ──そんなアンタが、私は、大好きだったよ。


「……綺麗な空だなぁ」

 大人になった今。

 私の隣に、アンタはいない。

 もう十年以上、会っていない。

 どこで何をしているのか、噂にも聞かないけれど。

「どっかで見てるかぁ?」


 ──今でも、大好きだよ。


 あの日みたいに青い空を見上げながら、私は今日もアンタを想う。


 END.

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