第5話 きっとノラでも生きていける
──今だっ!!
オレはオリに戻される瞬間を狙って、外に繋がる入り口目掛けて一目散に走った。
ちょうどお客さんが入ってきたところで、自動ドアがオレを歓迎するように開く。
「あ! シロー! 待て!」
──やなこった! オレは今から自由の身なんだ!
店長は店を開けることもできず、入り口のところに留まってスマホで電話をしている。恐らくえっちゃんにかけてるんだろう。
耳が痒くもないのに痒いフリをして、オレはこの狭い空間から脱出することに成功した。
思えばペットショップでの生活なんてちっともいいことはなかった。
えっちゃんとの出会いはよかったけど、店長はオレ達を雑に扱うし、お客さんも商品として見るだけ。可愛い可愛いと言いながら素通りするだけだった。
そうこうしているうちにオレは生後半年にまで成長し、家族に迎え入れてくれるお客さんもいなくなった。
あそこに残っているちびっ子達はまだ家族が見つかる可能性がある。でもオレにはもうその可能性は低いだろう。
大きくなったイヌよりも、小さいうちから迎えたい家族ばかりだもの。
店の入り口を出るとそこには広大な駐車場が広がっている。それは知っていた。
だって、えっちゃんが暇な時に散歩に連れて行ってくれてたから。
あの店長はそんなことしてくれないけど、えっちゃんは
「あんなところにずっといたら、窮屈だよね」
ってオレ達を外に出してくれたんだ。
店に来て間もないちびっ子は免疫力がないから出してもらえないけど、3ヶ月くらいになると注射も終えてるからって、えっちゃんは散歩に連れて行ってくれる。
店の周りを少し歩くだけだけど、外の空気は気持ちいい。
オリに移されたオレはまだいいけど、ショーケースの中なんて空気が悪いし、よくあんなところでみんな我慢してるよな。
チッチなんて大人になってもちっこいんだから、生後半年たってもショーケースに入れられたままなんだろう。
でもチワワは人気があるから、店に来てもすぐに家族が見つかる。
今まで話したこともなく家族が見つかって店を出て行ったチワワは、たくさん見てきた。
オレはこれからどこへ行くんだろう。わからないけど、とにかく空気のいいところへ逃げたかった。
イヌはもともと野生だから、きっとノラでも生きていける……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます