第111話 職場復帰
「今日からくるみが隊に復帰する」
隊長の張りのある声が会議室に響いた。隊長のマサキはBBの面々が集まる朝礼で報告した。
どんなにこの日が来ることを待ち望んだことか。
くるみは少し照れながら隊長の後ろから1歩前へ出た。楕円形のテーブルを前に30名ほどのメンバーが座っている。
懐かしい制服姿。皆、顔見知りのはずなのに、4年の間にずいぶんと雰囲気が変わっていた。ジーナは髪を真っ赤に染めていたし、ノアは筋トレをし過ぎのように見えた。
初めて会うような気恥ずかしさの中、くるみは努めて落ち着いた面持ちで皆の前に立った。ミナトは奥の席から静かに見守っている。
「長い間不在にしていましたが、ようやく始まりの国へ帰って来ることができました。初心の気持ちに戻り、また皆さんと一緒に働かせてください」
その言葉を聞いたマサキは感極まって男泣きをした。他のメンバーもこらえきれずに涙を流した。長い間心に抱えていた罪悪感のようなものがどっと溢れ出したのかもしれない。
BBのメンバーでさえ国民と同じようにくるみは死んでしまったと諦めていた。
ガーラとの戦闘で満身創痍になった兵士たちの体を癒し、最後の賭けに出たくるみは、時空の裂け目に飛ばされた。
あの時点では、これ以上戦い続けていても勝ち目がないことを誰もが悟っていた。だからこそくるみが終わらせるしかなかったのだ。
結局あれ以上の展開は考えられなかった。
ガーラは呪いの指輪を失い、くるみは消えた。BBたちは皆後ろめたい気持ちがありながらも、当時は安堵する方が強かったのかもしれない。
その後のくるみの消息を知る者は誰もいなかった。しかし、ケイジロウの祖母マリナだけは兄弟星の地球にいることを確信していた。
それから数ヶ月後、ミナトは魂の通り道『時代屋時計店』から日本にやって来た。そして、ほどなくしてくるみの生存を確認したのだった。
記憶を失くし、なぜか日本語を話すくるみがいた。マリナによると、くるみの魂の中に日本人だった時の記憶が残っていたようなのだ。
魂とは不思議なもので、自分が知らない前世の記憶が残っていることもあるようだ。
くるみの仕事復帰の挨拶が終わるとフウマから今後のBBの活動が発表された。
そもそも、BBは王室特殊部隊のことだ。王室を守り繁栄させていくためにあらゆることに目を光らせなければならない。
その1つに全ての指輪の回収があった。
ガーラがはめてしまった呪いの指輪が発見されるまでは、今ほど指輪の回収に力を入れることはなかった。
むしろ、現存する指輪の適合者を見つけることの方が重要だった。しかし、ガーラの一件もあり、指輪に関しては慎重に扱うべきとの声が上がるようになった。
もちろん呪いの指輪は消滅した。しかし呪いの指輪でなくとも、国の管理しない所で発見された指輪が悪用されるとも限らない。だからこそ、早急に全回収を目指すのだ。
残るはあと2つだった。
「くるみ、早速だが僕と隊長とジーナで指輪の捜索にあたるよ」
フウマが資料をまわしてきた。
「泊まり込みの捜索だからね。しばらく家には帰れないよ」
「わかりました。迷惑をかけないように頑張ります」
控えめなくるみの言葉を聞いて皆は少し心配したが、くるみの能力を思い出してみれば計り知れない力を秘めていたことを思い出す。
こうして、数カ月にわたり残り2つの指輪の捜索が始まった。その間にガーラは釈放され故郷の街フォンテシオへ戻ることとなった。
くるみの日常は忙しくも充実している。
ただ少し頭を悩ませていたのは、ミナトから告げられた言葉だった。泊まり込みの捜索に出発する前日、ミナトに呼び出されたのだ。
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