第87話 くるみの知らない話 2



 3人はくるみを始まりの国へ迎え入れる計画を立てることになった。まずは記憶を戻すことが先決だ。


「他の人と同じように記憶の森のミステリーツアーに参加するのはどうだろう」


 フウマの言葉にケイジロウは反論した。


「先生、記憶の森は膨大な広さなんですよ。1度行ったからって見つかるものじゃありません」


「わかってるよ、ケイジロウ。2人で苦労するのがいいんじゃないか」


「そうですかね。先生もミナトも風の指輪の使い手ですよ!一気に空飛んで共鳴する樹を見つければいいじゃないですか」


「わかってるんだよ、ケイジロウ。さっきも言ったようにゆっくりと2人きりの時間があってもいいかと思ったんだよ。それでもダメなら飛べばいいんじゃない?」


 ケイジロウとフウマが言い合いをする中、ミナトはぼそっと呟いた。


「それもいいかも」


 フウマは勝ち誇ったような顔でケイジロウを見た。


「じゃあナイトツアーのチケット取らないとね。店長さん」


 ケイジロウは少し納得がいかないようだったがミナトが決めたことに逆らうつもりはなかった。


 3人は他にもいくつかの決まり事を話し合った。


 まずは記憶を取り戻すまで周囲にはくるみの存在を明かさない事。それから、くるみの両親の詳しい事情やミナトがこの国にいることもまだ隠しておくことだ。


 ガーラはくるみの生の指輪を求めてこの街に攻めてきた。ガーラの呪いの指輪はくるみと共に消滅したが、裏で手を引いた奴らが必ずいる。


 あの呪いの指輪は千年前に主と共に深い海に沈められたと文献には記されている。それなのに何故……。


 とにかく、くるみが隠した生の指輪を早く安全な所へ移すためにも記憶を戻したい。それが見えざる脅威への備えでもある。


「くるみにはある程度自分の身を守れるようにしてやらないとね。懐かしいな」


 フウマはそう言うと、まだ本調子ではないミナトを見た。


「そうですね。3人で指輪の能力を引き出す訓練をしましたね。記憶戻るといいな」


「きっと戻るさ。記憶の樹を信じよう」


 フウマはミナトの肩に手を置いた。


 ケイジロウは2本目の缶ビールを2人に渡した。


「よし、もう1度乾杯だ」


 3人はひとまずの段階であったが大いに喜びを噛みしめた。しかし、その笑顔の下でケイジロウは一抹の不安を抱えていた。


 2年前にマリナばあちゃんに用意してもらったチート的な時計の存在だった。


 それをミナトはくるみに渡すことになったのだが、実際に永遠の時間を与えられた時計なのだろうか。時の秤にかけて金色の玉と吊り合うのだろうか。


 ここに来て見えないプレッシャーに押しつぶされそうなケイジロウだった。

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