第58話 私の指輪
「こうして君は、指輪の使い手となったんだ」
ケイジロウは実にスッキリとした様子で伸びをした。
しかし、くるみは困惑しきりである。
自分の年齢・生い立ち・ミナトとの関係、全てにおいて初めて知ることでばかりだったが、やはり、今一つ理解ができないのは家族がどうしてにげているかだ。
そして、くるみの記憶を奪ったも同然のガーラという男の存在は、いかなるものなのか。
敵の大将?北の英雄?
そんな人間がまだこの世界にいるのなら、あまりに恐ろしい。
くるみは知らない話を色々と聞かされた分、疑問も2倍3倍と膨らんだ。
「この指輪を見て」
ケイジロウは自分の右手にはめた指輪を見せた。
「これが魔法の指輪なんだよ。僕の家系は何故かこの時の指輪の適合者が多くてね。ばあちゃん、父ちゃん、姉ちゃん、そして俺」
くるみは身を乗り出しケイジロウの指輪を見た。男性の割にはすらっと長く美しい中指に、不釣り合いなほど武骨な指輪がはめられていた。
今までにもケイジロウの指にこのパンクロックを思い浮かべるような指輪がはめられているのを目にしていた。しかし、魔法の指輪だとは夢にも思わなかった。
「この指輪のおかげで僕は時代屋時計店で仕事ができるんだ」
くるみはたくさんの不思議を体験してこの地にたどり着いたはずなのに、目の前に魔法使いが座っているのが信じられなかった。
そして、話の流れから言うと、くるみ自身も魔法を使えるというのだ。
「私がフェスティバルで適合した指輪ってどこにあるんですか」
ふとした疑問がくるみの頭に浮かんだ。
「そこ、そこなんだよ!」
ケイジロウは語気を強めて言った。
くるみは、びっくりして肩をすくめた。誰もいないはずの店内でケイジロウは声を潜めた。
「その指輪のありかはくるみちゃんが知ってるはずなんだ」
記憶のないくるみには思い出すことなんて到底無理な話だった。
「くるみちゃんは4年前の11月に指輪をどこかに隠したらしい。君がこの世界から消えた後も、だいぶ探したんだ。でも見つからない」
「私はどうして指輪を隠したんですか」
「それは……」
ケイジロウは言いづらそうだ。
「4年前にガーラがこの城に攻め込んで来たのは、君と指輪の能力を奪うためだったからだよ。ガーラはとにかく君と指輪が欲しかったんだ」
くるみはぞっとした。
(そんな恐ろしい人生を、私は送っていたなんて)
「ガーラは人の心も変えてしまうほどの力を持っていたから、君と生の指輪さえ有ればもう敵なしになれると思ったんだ。君は勇敢だったよ。俺やミナト、フウマ先生たちがガーラと戦っている間に、どこかへ指輪を隠しに行ったんだ。そして戻って来た時にはミナトは死にかけていた…。君は血だらけのミナトをきつく抱きしめると何かを呟き、ガーラに向かって走って行った。止めたかったけど、もう誰も力は残っていなかったから……。見守るしかなかったんだ。ごめん……」
ケイジロウは4年前のことをやっと詫びることができた。
気が付くと2人の目には涙が浮かんでいた。
この話はもっと後から話そうと思っていたケイジロウだったが、つい話してしまった。
「それで、私はガーラに何をしたんですか」
「ガーラはとても稀な人間で、この世界に30と1個存在する魔法の指輪のうち、3つの指輪の適合者だったんだ。そして彼の人格を変えてしまった指輪、呪いの指輪を君は抜き取った。ガーラは君と指輪の能力が欲しかったものだから、君に攻撃することができない。君はそのことを分かって上手く油断させたんだろね。そのすきに指輪を奪ったんだ。凄い勇気だよ。その途端ガーラは精神に異常をきたしたのか、狂い始め、空に時空の裂け目を作った。そして君はその裂け目に呪いの指輪ごと吹き飛ばされた。それから3日目の朝にガーラは力尽き、戦いは終わった」
くるみにはとてもショックな話だった。
それと同時に、川崎診療所での最後の夜を思い出していた。
お土産に買って行った和生菓子を食べながら楽しかったあの夜。
「そうか、あれは戦いの末のものだったんだ」
くるみはようやく、自分の過去と現在が繋がったような気がした。
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