第53話 ことづけ
街へ入るとすぐに若い門番がケイジロウに駆け寄ってきた。
「あの、
「なに?」
ケイジロウはゲートの近くに現れた女性「レイラ」からなのではないかと恐怖を感じ、くるみの後ろに隠れた。
「違いますよ。レイラさんからではありません」
「あぁ、そうなの。なら話して!」
若い門番はくるみの方をちらっと見た。
「ケイジロウさんにと言われたので…」
くるみは聞いてはいけない話だと感じ、2人から少し距離をとった。若い門番はくるみに軽く頭を下げ、ケイジロウに耳打ちをするように話し始めた。
「ティムさんが、まさかあの子なのか?と申しておりました。それと、護衛は必要ないのか、ともおっしゃっています」
「さすが、キングオブ門番だね。ティムじいさんは凄いな」
「それで、何と伝えたら…」
「その通りです。護衛は必要ありません。フウマ先生には伝えてあります。と言っておいて」
「分かりました」
若い門番は急いで頭を下げ、戻って行った。
ケイジロウはくるみを見つけようと、辺りを見渡した。すると広場にいくつかある土産物の屋台を覗き込むくるみを見つけた。
「おまたせ。さっきからごめんね」
「大丈夫ですよ。もうここまで来られたんですから」
「ケイジロウさんこそ大丈夫ですか。あの女性かなりイライラしてましたね」
「いゃ~参ったよ。女の人は怖いね。それより、さっきの質問だけど、ちゃんとご両親の話をするからもう少し待って」
くるみは返事をする代わりににっこりと笑顔を返した。
「お詫びに、美味しいものをごちそうするよ」
そう言って、ケイジロウは広場から無数に広がる小道をすり抜け、坂道を上り、猫を横目にずんずん進んだ。
迷路のように入り組んだ家々の壁には洗濯物やら国旗のようなものがなびいている。
進むにつれて道幅が広くなり、車が行き交える程の通りになっていた。
街並みも心なしかにぎやかで、住居よりもお店が多くなっている。
大きな鞄を持った観光客のような人々ともすれ違った。不思議なことに、街中での会話は日本にいる時のように理解できた。
「私、入国許可書を持って、駅前の中央マーケットに行くんですよね」
くるみは何も聞かされていないのに、『始まりの国 ビギナーのすすめ』のパンフレットが頭に入っていた。
ケイジロウが言っていたように、あの恐怖の階段を下りるうちにこの国の言葉も旅行者に必要な基本情報もやんわりと頭に入っている。
まるで、旅行ガイドを読んできたみたいだ。
「中央マーケットでは、旅の間に使えるお金の代わりのカードとお守りがもらえるよ」
「お守りですか? ありがたいですけど、不思議なアイテムですね」
2人は話しながら石畳をひたすら歩き続き続けた。しかし、疲れはしなかった。
街路樹と花で溢れかえる街並みは、どれだけ見ても飽きることはない。
ケイジロウは二股の分かれ道を下に降りて行った。
少し遅れながらもくるみは着いて行く。
そこは先ほどまでのにぎやかな路地とは異なり、落ち着いた雰囲気のお店が並んでいた。
「さぁ、こちらへお入りください」
ケイジロウは黄色いひさしのカフェテラスがある店の扉を開け、
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