第39話 永遠のトラベラー
くるみが時計を置くと予想通り、時計を置いた方の皿が下に傾いた。
「これから君の時計に与えられた時間を計っていくね。白・黄・黄緑・緑・橙・赤・赤紫・紫・青・水色・銀・金この順番に置いて行くんだ。白なら与えられた時間は1日。黄色なら2日だよ。」
「じゃあ10番目の水色なら10日間旅行ができるってことですね」
「正解!でも銀は11日間ではなくて1ヶ月で、金はナイショ!」
ケイジロウはいたずらな笑顔でくるみを見た。
ケイジロウは皮手袋のまま白く輝く時の玉をそうっと右の天秤に置いた。
くるみは魔法の世界にでも連れてこられたような気分だった。
銀の皿の中で出番を待っている時の玉は、生きているかのように発光の強さが変わる。
私は何日旅ができるのだろう。
家族に会えたら何を話そう。
私はどこからやって来たのだろう。
落ち着かない様子のくるみにケイジロウは話しかけた。
「見てごらん。白の玉じゃ吊り合わないね」
「あぁよかった。旅行に行けなかったらどうしようかと思っちゃいました」
ケイジロウはくるみの嬉しそうな顔を見ると、早く金の時の玉を置いて驚かせたいと思った。しかし、もう少しドキドキの時間を楽しみたかった。
ケイジロウは次の黄色の時の玉に変えながら、くるみに質問をした。
「くるみちゃん。この時計は買った物?」
「えっ、違います。もらったんです」
「誰からって聞いてもいい?」
「はい。高校生の時に出会った幻のような人からです」
「幻?」
ケイジロウは少し笑いながら聞き返した。
「説明が難しいんですけど、1ヶ月だけしか一緒に過ごせなかった王子様みたいな憧れの人なんです」
「ふーん、そんな人に出会ったんだ。王子様ね…。」
ケイジロウはそれ以上聞かずに淡々と作業を進めた。
薄暗く閉め切られた店内はエアコンもないのに冷たい風が足元を通る。
くるみはケイジロウが時の玉を置き換える度にわくわくが止まらなくなり、気が付くと体はずいぶんと前のめりになっていた。
10番目の水色の玉を置いても天秤は吊り合わなかった。
「この天秤壊れていませんよね?」
くるみは心配になり、つい疑ってしまった。
「たぶん壊れてないよ」
ケイジロウは自信たっぷりに答えたつもりだったが、正直不安だった。
そして銀の玉を置いた時だ。ついに時計を乗せた天秤の皿が少し浮き上がった。
「これって1ヶ月は確定ってことですか?」
「その通り!! じゃあの残された最後の時の玉を置くね」
ケイジロウは
くるみも手を合わせ何かつぶやいている。
ゆっくりと動き出す天秤は2つの皿が同じような高さになり、少しの揺らめきの後、ぴたりと止まった。
2人はお互いの顔を見た。
「おめでとう。くるみちゃん」
「金の時の玉はどういうことなんですか?」
ケイジロウは2年越しの緊張感から開放され、力尽きた顔でソファにもたれている。
(ばあちゃん! さすがだよ、ばあちゃん……。)
ケイジロウは目を潤ませ、写真立てに目をやった。
今井さんとにこやかに笑うマリナばあちゃんに親指を立てグットを送った。そして、ようやくくるみの質問に答えた。
「金の時の玉は…金の時の玉はね、永遠のトラベラーになれるってことなんだ」
くるみはケイジロウの言った意味が分からなかった。
ケイジロウもくるみのぽかんとした顔を見て説明が足りていないのが分かっていた。
「つまり、限りなくタイムトラベルができるってことだよ」
「それは凄いことなんですよね」
「凄いことだよ!家族を探しに行けるんだよ!記憶をなくす前の世界へも行けるんだ!!」
「時計をくれたミナト君に感謝しなくちゃ!」
ケイジロウは喜ぶくるみの顔を見ながら2人に最高の報告ができるこの日を迎えられたことに幸せを感じていた。
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