第18話 居なくなった子ども達

「お願いだから、助けておくれよ」

「いや、だから今あの森は魔物の巣窟で、騎士団だって死傷者が出てるんだぜ」

 冒険者のおっちゃんは、やんわり断っている。我流で獲物を狩っている、何の訓練も受けていない普通の冒険者が太刀打ちできるような森では無くなっていた。

 あのおっちゃんが行ったところで、犠牲者が増えるだけだろう。


 太刀打ちできるだろう上位ランクの冒険者は、国外に逃げてしまったか、逃げることの出来ないこの国出身の人達は、国の戦力として連れて行かれてしまっていた。


 それでもおばちゃん。子ども達の母親は泣いて縋っている。

 受付のお姉さん、ソフィアさんが見かねてカウンターから出てきた。

「サラさん。取り敢えず依頼書を作成しましょう」

 おばちゃんの名前はサラさんというのか……。

「だけど、こうしている間にもあの子たちは」

「それでもギルドを通さない仕事は、受けかねますよ。よくお判りでしょう? あなたのご主人も……」

 サラさんは、涙でぐしょぐしょになった顔でソフィアさんを見詰めて……。


「そうだね。あの人も……」

 そう行ったきり、うつむいた。ソフィアさんが受付まで寄り添うように連れて行く。

「子ども達……森へ行ったの? 薬草を取りに」

 私は、依頼書の作成を待って、サラさんに声を掛けた。

「ああ、ナタリーちゃん。そうなんだよ。最近では他の仕事も出来るようになって来たのに、それでも足りないからって」

 

 

「ナタリーちゃんにも、心配かけたね」

 心配で仕方が無いだろうに、笑いかけてくれる。


 何だろう? なんだか心の中がチリチリと痛む。

 あの子たちは、無茶をしては周りをハラハラさせていた。

 父親は亡くなったのだと随分前に子ども達に聞いた気がする。僕たちも働いて、母親を助けるのだと……。


「さぁ、ナタリーちゃんは自分の部屋に戻っていてね」

 そう言われて、2階の自分の部屋に行くように促された。

 確かに、ここに居ても邪魔になるだけだ。

 私は素直に自分の部屋に戻った。



 関係無い。人間は元々嫌いだ。


 だけど……何だろう。この落ち着かなさは……。


 薬草あるの場所は、行った事があるから知っている。

 私は主に冒険者の人たちが採ってきたものを使っていたけど、自分で採取に行った事も何度もある。

 冒険者に交じって、子どももかなりいたので特に目立つことは無かった。


 私は転移の魔法を展開する。


 次の瞬間、音も無く私は自分の部屋から姿を消した。

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