第9話 お引越しとお仕事

 回復魔法を使う仕事がヒマになった頃。

 私は王都の下町で借りていたアパートの一室を引き払い、ギルド内の寮に越してきていた。

 子どもの姿で、こちらとあちらを行き来していた時に使っていたお部屋がそのまま残されていて驚く。


「さすがに、子どもの頃の服は処分……と言うか、他の子にお下がりとして渡してしまったのだけどね」

 マチルドさんがそう言いながら、お部屋を一緒に整えていってくれる。

「かまいませんよ。それに私もお下がりを着てましたから……」

 クローゼットに服を掛けながら私もそう返していた。

「さて、こんなところかしら」

「忙しいのに、ありがとうございます」

 ザっと片付いたところで、マチルドさんが引き上げようとしたので、私はお礼を言った。

「いいえ。治療が無い時は、のんびりしていてね。後、出かける時は受付に声を掛けてくれると助かるわ」

「はい。わかりました」


 部屋代と食事も無料だし。

 衣服は当面買わなくて良いし……。

 これで移住資金も少しはたまるかな?


 あっと、クローゼット開けっぱなしだった。

 閉めようとして、ふと目に留まった白い服。

 着なくて良いから一応持っておけとギルド長から渡された魔術師団の制服。

 少し気が重くなりながら、私はクローゼットを閉めた。



 あれからしばらくしたら、冒険者たちの魔物討伐の仕事も減ってしまった。

 依頼があっても、死ぬかもしれない仕事を引き受けたくも無いだろう。

 もっぱら、町の雑用をこなしているようだった。


 ケガ人がいなければ、本当に何もする事が無い。

 少し外に出ても良いのだろうか?

 そう思って、下に降りると

「ああ、ナタリーちゃん。丁度良かった、今呼びに行こうと思ってたの」

 受付のソフィアに声を掛けられた。

「どうかしましたか?」

「ケガ人がね。2人程」

 そう言ってソフィアが見た方を私も見る。


 子ども達と……その母親だろうか?

 男の子が2人、腕にケガを負っている。

「どうされました?」

「どうもこうも、入ってはいけないって言っているのに、森に入ってしまって」

「だって、薬草が無いと、ポーションが」

「仕方ないでしょ。もう危なくて薬草なんか採りに行かれないんだから」

 なんだか親子ゲンカが始まってた。


「あら、ナタリーちゃん。ごめんなさいね。引っ越しの当日に、この子たちが」

「あっ、いえ」

 誰だっけ? えっと……。あれ?

「これ。どこで、ケガしたの?」

 なんだか、傷口が黒くなっている。

 だから私は慌てて子どもたちに訊いた。

「森に入ってすぐのところ。僕ら、薬草が生えている場所、聞いてたから」

 誰に? と問うまでも無く、冒険者だろう。

 男の子だから、いずれ冒険者になると思って教えたのか。


「そう」

 私は、男の子たちの側に行って、魔法をかける。

 黒い部分……瘴気も払った。

 男の子たちは、消えたキズを見てすげ~だのなんだの言っているけど。

「ありがとうね。ナタリーちゃん」

「いえ。ちゃんと報酬は頂いているので……」

 面識はある。だけど、名前は覚えてない。これを機にある程度の人間の名前は覚えるべきだろうか? 

「それでも、格安だもの。助かるよ」

 にこやかにそう言って受付で受付で料金を払い、子ども達には

「もう、二度と結界抜けてあの森に入るんじゃないよ。ほら、さっさと行くよ」

 と、叱りながらき立てて出て行ってしまった。

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