第33話

 けっきょく、レイ、テツヤ、マナカの並びで映画を観ることになった。

 シアター内のライトが暗くなり、上映開始まで数分となる。


「ワクワクしますね〜」


 マナカが上体を揺らす。


「どうせ陳腐なストーリーに決まっているわ」


 こっちはレイの意見。


「どうして盛り下げるようなことをいうかな〜」

「ふん、だ。期待するからガッカリするのよ。期待しないくらいがちょうどいいの」

「うわ……現実的……これだからお姉ちゃんは……」


 つまらない!

 マナカは最後の言葉をぐっと飲み込んだ。

 妹なのに偉いといえる。


「楽しみだよね、結城くんは」

「まあね。映画なんて滅多に観ないしね」


 ふいにマナカが手を重ねてきた。

 恋人がやるみたいにぴったりと。


「ちょっと……マナカさん?」

「おお、結城くんの手、大きい。さすが男の子」

「ああ……」


 手の大きさ比べか。

 恋人ごっこでレイを挑発するのが目的じゃないと知り安堵あんどする。


 映画がスタートした。


 ストーリーは淡々と進んでいく。

 筋書きそのものは平凡だった。


 男の子と女の子がいて、徐々に仲を深めていく。

 そろそろ告白シーンかと思われたとき、男の子が事故にあい、幽霊人間になってしまう。

 そんな一夏を描いた恋物語。


 2人は何回かデートするのだけれども、片方は生身で、片方は幽霊。

 手を結べないもどかしさが募っていく。


 男女は思い切って、この世とあの世の境目とされる土地へ向かった。

 この空間なら生身だろうが幽霊だろうがフェアに触れられる。

 念願だった初キスをかわす。


 そしてクライマックス。

 こういう映画のお約束で、唐突に男の子が消えてしまう。


 覚悟していたとはいえ、戸惑ってしまうヒロイン。

 思い出の場所を探すが、彼の姿はどこにもない。


 ポロリ、ポロリ、ポロリ……。

 泣かないという約束を破ったとき。


『リツ!』


 後ろから彼の声が聞こえた。

 なんで生きているの⁉︎ と信じられないヒロイン。


 実は、男の子は意識不明の重体だった。

 ほとんど幽霊になっていたけれども、奇跡的に意識を取り戻すことに成功して、幽霊状態から解放されたのである。


 兄弟に頼んで、病院から連れ出してもらった。

 みずからの足でヒロインを探しにきたのである。


 めでたし、めでたし。

 きれいなハッピーエンド。


 時間も100分くらいで、テンポ良くまとまっており、SNSでアルバムを作成するのが現代風だし、ヒットするのも納得の作品といえる。


 ぐすん……ぐすん……。

 隣からすすり泣きが聞こえてきた。

 マナカかな? と思いきやレイだった。


 どうしよう。

 下手に声をかけたら怒られそう。


「レイさん、俺のハンカチでよければつかう?」

「別に泣いていないわよ」

「いやいや」


 マナカの方も目がうるうるしている。

 落涙はしていないから、涙腺るいせんの緩さでいうと、レイの方が上らしい。


「なんなのよ、もう……絶対に死んだと思ったじゃない……二度と会えないと……それなのに意識不明の重体でしたとか、彼氏はバカなのかしら」


 思いっきり感情移入しているじゃねえか。

 ヒロイン目線で文句までいっているし。


「なるほど、お姉さんは恋愛物、好きそうだね」


 マナカに耳打ちしておいた。


「小説とかマンガでも、ちょくちょく泣くのです。心の清らかさなら、私よりお姉ちゃんが上だと思います」


 マナカは困ったように眉を曲げる。


 エンドロールが終わっても、まだレイの涙は止まらなかった。

 仕方ないので、みんなが出払うのを待ってから、最後にシアターを退場した。

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