第16話

 メッセージの通知音が鳴りまくった。


『バカ! バカ! バカ! バカ! バカ!』

『結城くんのアホ〜〜〜!!!』

『もう知らない!』

『こんなSNSのアカウント!』

『一生見たくない! 消してやる!』


 えっ⁉︎ ええっ⁉︎

 これって、怒りMAXってやつか⁉︎


 小学生みたいだな。

 そりゃ、テツヤの言い方が悪かったかもしれないし、図星を突かれた悔しさも理解できるが、さすがに……いや、かなり乱暴すぎないか?


「SNSのアカウント消すって、マジかよ」


 せっかくマナカがインストールしてくれたのに。

 対面にレイがいたら、携帯を奪ってでも阻止したい。


『織部さん、本当にごめんって』

『さっきは俺が調子にのっていた』

『このメッセージが届いていたら、考え直してくれないかな?』


 しくじった〜。

 レイはSNSに慣れていない。

 顔が見えないコミュニケーションだから、郷土資料室の時より慎重にやらないと……。


 どうしよう。

 玉子焼きで破局……あれが現実味を帯びてきた。


 せっかく、レイの胃袋をつかんだのに。

 ここ3日くらいの努力が水泡すいほうに帰していく。


「しつこく連絡したら、火に油を注いじゃうしな……う〜ん」


 諦めたテツヤがベッドに寝転がったとき。

 ぴろりん♪ と携帯が鳴ってくれた。


 飛びつく。

 SNSをチェックする。


『もしもし、マナカです』

『なんか姉がすみません……』


 あ〜あ。

 命拾いした。


『こんばんは、マナカさん』

『いや、俺の方こそ悪かったよ』

『それで、お姉さんは?』


『自分の部屋にすっ飛んでいきました』

『なんか様子が変だと思ったら』

『やり取りを見て、納得です』


『本当に俺が悪かったよ』

『まさか、ここまで怒るとは……』

『申し訳ないことをしたと思っている』


『何いっているのです!』

『どう考えても、悪いのは……』

『結城くんじゃなくて、お姉ちゃんの方です!』


 なんだよ。

 マナカさん、天使かよ。


『一方的に怒鳴どなり散らして……』

『アカウントを消してやるとか!』

『アカウントの消し方、知らないくせに!』

『こんなの、ねた小学生です!』

『7歳児の思考です!』

噴飯ふんぱんです!』


 だよね〜。

 マジ助かる。


『私がお姉ちゃんに説教してきます!』


 えっ⁉︎


『結城くんに謝らせます!』

『メッセージじゃなくて電話で直接!』

『玉子焼きが食べたいなら素直に食べたいというべきです!』


 待った! 待った!

 姉妹でケンカになるのでは⁉︎


『お願い、マナカさん!』

『突撃するのストップ!』


『どうしてですか⁉︎』

『結城くんは悔しくないのですか⁉︎』

『一方的にバカ! アホ! いわれて!』

『言い返そうと思わないのですか⁉︎』


『悔しいけれども……』

『言い返すのは、ちょっと違う』


『なぜです?』


『目には目を、の考え方だろう?』

『この国は盲目もうもくの人だらけになっちゃう』


『うふふ、なんですか、それ?』

『結城くん、お人好しですね』


『さあ、どうかな……』

『君のお姉さんの3倍は温和だろうね』


『へぇ〜』

『結城くんって、典型的な損しちゃう人ですね』


『生まれただけもうけもの』

『俺はそう考えるようにしている』


『おもしろいな〜』

『こんなに優しい人相手に……』

『なんでお姉ちゃんは怒っちゃうかな〜』

『ぷんぷん!』


『あはは……』


 じ〜ん。

 マナカさん、メチャ優しい。

 大天使アーク・エンジェルじゃねえか。


 愛帝あいていだな。

 氷帝とは真逆の愛帝。


 よしっ!

 マナカのためにも、ここは一つ。


『お願いごとをしたいのだけれども』

『マナカさん、ちょっと、いいかな?』


『はい、なんでしょう?』


『2つある』

『1個目は、俺が謝っていたと、いじけているお姉さんに伝えてほしい』


『お安いご用です!』


『2個目は、君たちの住所を教えてほしい』

『明日、学校が休みだから……』

『持っていくよ、玉子焼き』


『えっ⁉︎ いいのですか⁉︎』


『もちろん』

『そんで、急にピンポンしたら』

『君のお姉さん、100%怒るから』

『俺が届けにいくと、事前に伝えておいて』


『はい、楽しみに待っています!』


 ポンポンポンッ!

 マナカから愛らしいスタンプが送られてきた。

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