第12階 最弱種族の王

 イムは普段使わない力を使ったから深く眠り続けている。


 鍛錬が大好きなマユナの傷は本当に大した事なく


「少しの事」


でとマユナはマスカリアと笑っていた。


 「ハツミー!」


 マテハが治療法に関して聞きたがっているみたいです。


 イムがその背中で穏やかに寝息をたてています。

私達は交代でイムをおんぶして運ぶ事にしました。


 先程と違い穏やかな景色が続きます。


 不意にマテハは言います。


「もう闇一族の領域に足を踏み込んでいる」


 と


 闇一族の長はドゲートさんと同じく三竜王の一人"倶天"というそうです。


 倶天さんの居城は森の深き場所にひっそり構えてありました。

 深淵を越えて森の更に奥まった場所。

誰も探す事は出来ないと思います。

私はついて行っただけでした。

マスカリアとマテハに。


 マスカリアには闇一族のチカラが眠っている様です。

 本人が気付いているかどうかは試してはいないけども城の奥で一際強い力と傾向が似ている点がありますからね。


 マテハは特別な何かを保有しているのでしょう。

 全くといっていい程に闇一族のチカラは感じられませんが

 天才が霞む程の天才。


 「うわあああああ」


 驚いたイムがマテハの背中で慌てていますがマテハはイムを綺麗な円を描く様に武術の類いで立たせてあげていました。


 「マテ姉...ありがと!」


 イムはも落ち着いた様子です。

ほら、とっても笑顔で。


 「いえいえ、お安い御用で。

まだおぶられていてもいいのよ」


 マテハは笑みをこぼしていた。


「...それはもう卒業したでしょ?」


 イムはなんだか気恥ずかしそうにもじもじしています。


 「イムはさ、良くマテハにおぶられていたね〜、可愛かったぜぃ」


 マスカリアは肘で軽くイムをつつきます。

イムは真っ赤で顔を隠し始めました。


 良いね、姉妹って。

私はそう思いながら。


 「マユナ...?」


 「いや、何でもない」


 マユナは苦笑していた。

城をボーっと見つめていたマユナは何を考えていたのだろうか。


 「マユナね、倶天さんに色々戦いの事を積極的に教えて貰っていたから。私を超える為にだから、きっと感慨深いんじゃないかな?」


 マテハは一つ笑みを灯して、

ふざけあっているイムとマスカリアに混ざりにいった。


 「マユナ行こう」


 私は緊張しているマユナに安心感を届けたいと微笑んだ。


 少しだけ目を逸らしたマユナ。

そして、


 「うん!」


 満面の笑みで応えてくれた。

決意を固めた様だった。


 闇一族は最強の一族と謳われている星一族とは対で最弱の一族と呼ばれてはいる。

けれど超位四種族の一つに数えられている。


 超位四種族は神々を持ってして奇跡といえる事例を起こした種族の総称でもあるわ。


 神々や通常の種族では神々以上としか認識出来ない為、"超越者の位置に座する"四つの種族とされているが、四種族には明確な差がある。


 今回倶天さんが属する闇一族は奇跡を超えた奇跡を起こす事は出来るといわれている。

 ただ、他の三種族に限らずどの種族よりも弱い弱小種族でもある。


 「たのもー!!」


 私はいつも通りに門前で合言葉を言った。


 「いや...喧嘩を売らないでよ」


 マユナは苦笑していた。


 大きな門が古びた音と共に迎えてくれます。

だけど、お城は何処か近未来的です。


 「かかれー!!!!」


 いきなり飛びかかって。

もとい、魔法が撃ち込まれます

全て無詠唱です。


 ただ威力の方は雀の涙です。


ーー魔吸収膜


 私は魔法が発動しない空間を創り全て束ねてまとめてみました。

 

 そして魔法吸膜を解除


ーー吸収噴射


 敵さんの目の前に落として破裂。


 激しい爆裂音に眩い閃光、そして煙が上がります。


 「「うわー!!」」


 敵さんはとても驚いてしまい尻餅をついています。


 大きくマユナが息を吸い込みます。


 「倶天!!!!!天に送りに来たぞ!!!!」


 その直後。


 叫んだマユナの首元に刃が置かれます、

何という早業でしょうか。


ーー吸収氷剣


 私も彼の首元に爆発で四散した魔力を束ねて氷の剣を創り刃先をそっと置いてみました。


 「いやいや試して悪かった。道場破りかと思ったのでな、様子を見に来たのだ。

私も剣をしまうから"お二人さん"も構えを解いてくれ」


 そう言って彼は剣を直しました。


 彼の剣は剣にあらず土の魔法だった。

私と近しい技を使う様ですね。


 もう1人構えていたのはマテハでしょう、

あれが抜刀術の構え。


 仲間ながら感心します。


 「一つ聞いて良いかな?」


 彼がマユナに質問していました。


 「はい、何でしょう?師よ」


 マユナは目をまぁるくして驚いていた。


 「何故マユナは無防備だったのかな?」


 それは私も思った。


 「ハツミが師に負ける姿を全く想像出来ませんので」


 その場の空気がひりつき、そして矛先は私に向けられる事となった。


 「それ程に信頼しているという事だな?」


 倶天の言葉にマユナは屈託のない笑顔で応えている。


 まぁ、倶天さんの剣がマユナに届くよりも、私の氷の剣を倶天さんの首元に届かせるつもりだったけど。


 「えぇ...出会ってから短いですけど戦いにスキが無いですね。

 あの人類最強も圧倒される訳だわ」


 と静かにマテハは口にしていた。


 倶天さんの表情があからさまに変わり、


「あのルヴァイを...か?」


 倶天さんの表情が凍り付くのが分かった。


 「戦った事があるのですね?」


 「あぁ...マユナ、今日はもう遅いから良ければ城で休んで行くと良い。仲間も一緒に」


 倶天さんは先に城内に入って行かれました。

私の問いに関する答えは城内で聞けるのかな。


 「私が後は案内します」


 私達はマユナに先導されて城内に入っていった。

敵として立ちはだかり襲って来た部下達も素直に道を開けて案内してくれていた。


 「どうやら師は迎え入れる準備をして先に奥に入ったそうです」


 情報交換かなと私は思った。

マユナが世話になっていうならいわば育ての親、私も話を聞いてみたい。


 私達は倶天さんの玉座の前の荘厳な扉の前まで来ていた。


 「開けるね」


 マユナが確かめる様にこちらに目をやる。

私達4人は静かに頷いた。


 「ようこそ、歓迎しよう。我が弟子とその仲間達よ」


 目の前には、着替えを済まし王として相応しい衣装に身を包んだ倶天さんが座していた。


 「お久しぶりです、倶天師」


 マユナが深々と頭を下げる。


 「頭を上げるんだマユナ、それと本日は無礼講でいこう」


 私はドゲートさんからの書簡を差し出した。


 「うむ、ありがとう」


 倶天さんは全体的に細っそりとしている。

明らかに武闘派では無いのが感じられる。

身体能力的には部下とさほど変わらずいや、闇一族全体を通してもかなり低くあって本来の私達と同程度と思われる。


 最弱は人類の幼体だが人類は神に近しきまで成長した実例がよくある。

 どんな最弱の人でも成長が武器になる可能性が大いにありえ、些細なきっかけを通して私が消し去ったユグドラシル騎士団の様に。


 「ふむふむ...一言でまとめると有無を言わずに協力してくれと書いてあるがまぁいい...」


 私達は他の闇一族の者達に案内され席に着いた。

そして料理が運ばれてきた。

 ドゲートさんの料理と比べるとかなり質素だけど濃厚な栄養を含む。

第七世界の言葉でいう薬膳料理というのが似合うと思う。

まぁ単純に大人の料理だなぁと思っていると

マテハは納得の顔をしていて、他の3人はちょっと物足りなさそうな顔をしていた。

倶全君は仮面をしていて表情がわからないけれど。

 無駄なき料理といえる、あとでレシピを聞いておこう。


 「いきなり、不躾で悪いんだが...」


 3人が揃って顔をあげる、不快とまではいかないがそれなりの顔をしていた。

 イムにマスカリア、マユナが箸を置く。


 「ルヴァイに関してでしょうか?」


 マユナの言葉に頷く倶天。


 「共に戦ったな?あれが最初にして最後だ、私も」

 

 マユナの目が点になる。


 もう一度頷く倶天。


 「えぇでは...」


 更に頷く倶天。


 マユナは覚悟を決めた様に深呼吸をして心の揺さぶりを落ち着けた様子だった。


 「この場をお借りして...」


 マユナが語り始めた。

 語った事を端的に言うと当時の四姉妹ではジリ貧となり徐々に追い詰められていった所に当時の三竜王と共にルヴァイ退ける事に成功したというものだったらしい。

 元々ルヴァイは魔皇軍でも手を焼いていたらしくGAME OVERに出来なかったとの事。

 そしてその戦いで三竜王のリーダーにしてロウ一族の長である或天アルテンは四姉妹にこの世界の可能性を見出したらしいとの事だった。


 「要するにルヴァイは天災の様な男だ。魔皇軍には星一族の王である全天軍がいたからな、流石の奴も部下を束ねて巨人の始祖である半完と共に毎度攻めて来た」


 倶天さんは苦い思い出を噛み潰す様な顔をしていた。


 「その男が1人に圧倒される様な事があろうとは全天に匹敵するという事か...して半完はそのときどうしていた?」


 驚愕過ぎる事実にどう言葉を選べばいいか分からず四姉妹と一人は黙り込んでいた。


 私は笑みを向けながら。


 「倶天さん?御言葉ですが語弊がありましたわ。私達6人で彼等を圧倒していましたよ」


 5人はびっくりしていた。


「分かりやすい嘘をつくでない。1人でルヴァイ軍を相手取ったのだろう?」


 悪戯な笑みを浮かべる倶天さん。


 「信じて頂けるのでしょうか」


 そして笑う瞳と目があった。


 「そういえば失礼な事をした名を聞いてなかったな、私は闇一族の王の倶天クテン

だ」


 私も倶天さんも目を背けなかった。


 「私はの名はアオナ・エカルラート」


 倶天は急に笑い堪えて吹き出した。


 「ははははははは!!!」


 急な態度にマスカリアとマテハ、イムが怒っていた。


 「すまん、すまん大変な意地悪をした。

義兄弟ドゲートからの書簡に書いてあったよ

この"ミリカンテア"の勇者と」


 そして倶天さんは席を立ち私の元へやって来て跪いた。

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