第11階 もう一つの今

 マテハの説明によるとマユナの傷は生命維持には問題ないみたい。


 「えへへ。ちょっと、油断しちった」


 「ふざけないでよ!!私がどれだけ!!!

深くないから良かったものを!」


 マテハもとても心配していた様です。


 「ほらほら。私も戦えている2人に驚き過ぎて大丈夫って過信して、こんな事になるとは思わなかったから使っていなかったし」


 戦えている?使っていなかった?確かにマテハとマユナの2人で若干押し気味の平行線を保っていた。

 決して油断して良い相手とは思えなかった。


 それとイムは疲弊して私の膝元でそよ風の様な寝息を立てて寝ている。

 あの巨人達がいなければ本来ここは緑に溢れていて物凄くのどかなところでもあるしミリカンテアという世界にそういう場所が非常に多い。

 ハツミリムも心が広い大きな神様で、ハツミリフィは明るく一直線な神様だから仕方ないといえば仕方ないか。


 「倶全君、お話聞かせてもらえるかしら?念話使えるから私も」


 私は目の前で立ち尽くし俯いた表情の彼に話しかけた。


 (「初めまして、俺様の名は忠勝ただかつ りゅう第七世界における地球の人間です」)


 (「カゲード《古代魔皇言語の一つ》でもあるのかしら?」)


 (「...そうです、この力は凄まじいです

強者として君臨する者達が紙切れの様です」)


 (「そう、貴方が人間離れしているということで間違いないかな?」)


 白亜剣と対の力、予測の範囲内ね。


 (「はい、そうだと思います。

 今は暴力で発展したン・トウ最大規模のクザを死と抱き合わせた後に刑殺官となりセキュリティの厳しい機密データを入手。

 多くの女性達の生の対極に位置する聖兇徒の群れをその入手した個人情報をもとに捕縛し異空間の牢獄に集めてあります。

 近々魔術発展の礎として、更に禁忌の革兵器のその先へ至る為に使用予定です。


 最近では聖兇徒の亜種として清凶徒が大きな国家への転覆を望んでいる様なので、ホン国の様に2度と抵抗出来ない様にしないといけない理由があります、蝿が煩わしいから」)


 (「そう、沢山葬っているのね」)


 (ですが御安心頂ければと、再犯率は今は1%未満に減りました。

 残忍系凶徒達にはストーカー能力でゆっくり追い詰めます。

怯えて震えてまるで被害者みたいに振る舞うんですよ。他者を追い詰める際にはあんなに楽しそうに笑みを浮かべていた凶徒達がです。

 一度人の肉の味を覚えたクマは葬って間違えないのと同じです。

 凶徒達の人権を訴える便腰達に味方するクザを切腹させ、家族や友人共々こうなりたいかって?聞いて差し上げたら顔面蒼白で隠居して逝きました。

 実験動物が増える見込みでしたが...良い事もありましたよ。

 凶徒が軒並み減ったので第七世界の発展が緩やかに伸び上がりました。

 凶徒は役立たずで反吐がでるのでほじくり出して駆除します。

 太陽を用いて焼き蒸発させる算段もつけております」)


 (「そう何も問題なさそうね」)


 ( 「最近では刑殺も完全に俺様の行いを黙認している様ですね。

 部下に聞いた話ですがなんでも刑殺のトップの娘さんを凶徒によって...悲痛な思いをされたとか。

 まぁ趣味で凶徒達を駆除しているんですが、表の人間が容認してくれるならありがたい事ですね」)


 (「続けてね」)


 (「えぇ!!!近々聖字架達と正面対決します。

 俺様が手に余る様で"塩"でまき対処します」)


 (「塩をまく?」)


 (「そうです!塩を凶徒達にまくと凶徒達の身体が壊れていって。

 それに非常に面白いです、悪を天国から地獄に堕とすの。」)


 (「そうね、でも倶全君は大丈夫なのかしら?」)


 (「第七世界で死に繋がる行いの時は仮面と紺色のローブをまといます。

 とても綺麗な顔で素晴らしく清き優しい心をお持ちなので尊厳を第一に考えております」)


 (「そう、あまり無茶しないでね」)


 (「はい!あのその...俺様!褒められて嬉しいです。

 人が安心して住める地球の為に日々精進します!!!」)


 (「よろしくー」)


 そう伝えると彼の纏っていた空気が更に優しいものへと変化する。


 (「瀏はどちらで起こった事も認識できる様です。

 それとこの状況を"目覚め"というそうです。

 この別世界の人間の声が聞こえ、他の世界を認識出来る状態の事です。

 おそらくイムも目覚めたのでしょう。

無意味に私は葬り去られる命に嘆き、聞こえる様になりました」)


 私はきっと自分の弱さを悔いた時に。白亜剣を手に入れた。

 集然は無意識に使っていた。


 (「そう、目覚めのきっかけはそれぞれって事ね、あの二刀短剣の彼も目覚めているかしら?」)


 (「おそらく...あの強さは尋常じゃない」)


 倶全君はイムを心配そうに見つめている。


 (「そうよね」)

 まぁだろうね。あぁ...本が読みたい、このミリカンテアを知らな過ぎる。


 (「俺がいるだろう」)


 突如出現した白亜剣が回転しながらアピールしてくる。


 (「そうですね、この状況は目覚め

なのかしら?」)


 (「そうだ、メイユールも目覚めているから今はもうこの世界に4人」)


 (「って事はルヴァイもなのね」)


 白亜剣が頷くように切先を上から下に向ける。


 (「貴方は帰るって言ったけど私は使えなくなるのね?」)


 (「いや白亜剣と漆黒剣は残る。

 もう一人の俺は魔皇ミラース・ラーバ・ラーサとして永遠に残り続ける。

 向こうの状況はハツミには分からなくなるけど力は残るから安心して欲しい」)


 (「それでどうなの?」)


 (「こっちの世界は、まず深刻なニュースが無くなった。

 次々凄い道具が考えられ実現していっている。

 やっぱり凶徒達は世界にいらなかったんだ」)


 (「そういう事。なら勇者も現れないわね、私もスッキリした。

 神々をGAME OVERに追いやるかもしれないから」)


 (「検討を祈る。

 俺は最強の布陣を築いた所で神々のキレ・ルイデさんの強さに心折られ、結局滅ぼす事は出来なかった。)


 (「父!?」)


 (「全天と一騎打ちさせたら全天が一撃しか耐えられず倒れた、確信したよ。負けだなって」)


 その時だったんだ。


 (「アルテンが気がかりだった。

 エルフの事だけお願いして神々の攻略は断念した」)


 (「だから父はエルフの里で

ひっそりと暮らしていたのね」)


 (「俺とキレさんは話し合って同士討ちという事で歴史に残す様にした。

 魔皇と勇者はその時に表舞台から消えた。

俺はその後ハツミリ《未来》を創り出した。

 人を滅ぼすと俺は意気込んでいたけど結局俺も人だった。

 キレさんには止めてくれてありがとうと伝えた。

 娘の顔を見ぬまま俺の魔皇ミラース・ラーバ・ラーサとしての人生は幕を下ろした。

 最高の手下達とキレさんとその綺麗な奥さんに見守られながら。

 命をかけたからなハツミリ《未来》には」)


 そうは言っても何処か満たされている様に

清々しい表情をしている様に感じられた。

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