第47話 魔法の草刈り鎌

 ロデムポイントから日本へ戻った二人は、早速お婆さんに鎌をプレゼントしに家を訪ねた。


 「おばあさーん、居る―?」

 「おやおやあきらちゃん、暫く見なかったけど、病気でもしてたんかい?」

 「それがね……」


 二人は話し合って、あきらが政府機関の人間に捕まっていた事を説明した。


 「ふむ、能力がお国にバレて、今迄捕まっていて、ようやく釈放されたと」

 「釈放って言うと、犯罪犯して逮捕されてたみたいに聞こえるな」

 「笑い事じゃないわよ。一応VIP待遇ですからね。保護という名の軟禁状態だったけど」


 三人は笑いあった。

 お婆さんは、あきらの無事が心底嬉しいみたいだ。

 今ではもう、孫みたいな存在なのだろう。


 「それで、優樹君の事は秘密にしてあるんじゃな?」

 「ええ、この能力は私一人の物という事にしてあります」

 「ゴールドは国が一括で買い上げてくれる約束になったそうですよ」

 「でも、特別職公務員待遇というのを蹴ったのはちょっと惜しかったな。親方日の丸で安泰じゃったろうに」

 「嫌よ、そうしたら義務が生じちゃうでしょう? 国の仕事に自分の時間が忙殺されるのは絶対に嫌。それに、人に使われるのも嫌」

 「それもそうじゃな。便利に利用されるのがオチじゃろうな」

 「色々な物の販売権利というのはグッジョブかも。異世界商事が捗る」

 「うふふ、会社立ち上げる?」

 「良いね、この三人で立ち上げよう!」

 「ふぇっ? あたしもかい?」

 「そうよ、お婆ちゃんはもう仲間なんですからね。役員待遇兼相談役」


 「あ、そうそう、忘れるとこだった」


 優輝はストレージから鎌の包みを取り出し、包みを解いて中身をお婆さんに手渡した。


 「はぇー、これが何とか熊の爪で作った鎌なのかい? 随分と立派な作りじゃのう」


 それは、鎌というか小さなピッケルというか、そんな様な形をしている、柄には精緻な何処かの民族的な装飾の施された道具だ。


 「そうそう、ちょっと庭に出て見よう。雑草は無いかな」

 「雑草ならホレ、生垣の下に嫌に成る程生えとる」


 優輝は、お婆さんから鎌を受け取ると、雑草の生えている場所へ行ってしゃがんだ。


 「ちょっと見ててください。このままだと全然刃物じゃないから切れないんですけど……」


 優輝が手に持った鎌にエネルギーを送り込むと、爪の部分が輝き始めた。

 そのまま、雑草の生えている地面を撫でる様に動かすと、その軌道上に生えていた雑草が消滅した。


 「こんな感じ。全然力は要らないです」

 「はえぇ、なんとまあ。凄いもんじゃの」

 「ちょっと貸して、私もやってみたい」


 あきらも同じ様に爪を光らせ、雑草を消滅させた。


 「あはは、これ面白い」


 サクサクと雑草を処理して行く。


 「これ、あたしにも出来るんじゃろうか?」

 「ちょっと持ってみてください。出来る筈だから」


 お婆さんに鎌を渡し、扱い方をレクチャーする。


 「あたしはあんた達みたいな魔法は使えんのよ? 大丈夫なんかい?」

 「大丈夫大丈夫、ちょっと集中して、体の中のエネルギーというか気というか熱でも何でも良いから、それを頭から首を通って肩から肘、そして手首、指から鎌の柄を通って爪の部分へ流すイメージ」


 あきらはお婆さんの体を流れるエネルギーを見つめる。

 頭から流れ出るエネルギーは、頚椎を通り、肩のあたりで少し滞っているのを修正して流し、肘の部分で止まるのを修正、手首から指先へ経路を開き、柄の方へ流れて行く様に導く。

 少し流れをみていると、イメージ通りエネルギーが鎌の爪先まで流れて行っているのが見えた。

 鎌の爪が淡く光り出す。


 「いいわ、その状態で雑草の生えている辺りの地面を撫でてみて」

 「おう、やってみる」


 お婆さんは、優輝とあきらがやって見せた様に軽く地面を撫でた。


 「なんという事じゃ! 雑草が跡形も無く消えよった。これはゴミが出んでよいのう」

 「力も使わないし、普段は切れない刃物だから安全でしょう?」

 「これは良い物を貰った。ありがとうよぅ」


 「これ、消えた雑草は何処へ行ったのかしら?」

 「さあ? 四次元空間?」

 「気に成るわね。考え出すと眠れなくなりそう」

 『魂のエネルギーの方は収集されて体の方へ戻されているよ』

 「えっ? そうなの? 雑草の魂が? じゃあ、草刈りをすればする程元気になったり?」

 『うん、まあ微々たるものだけどね』

 「雑草魂って何か強そうに聞こえるけどな」


 雑草に限らず植物の魂のエネルギーは本当に小さな物なのだそうで、それが人間の巨大な魂のエネルギーに追加されたところで誤差程度なんだそうだ。

 ダム湖の水にコップの水を足すみたいなものらしい。

 構成物質の方は、分子サイズにまで細かく裁断されて、目には見えないがそこらに散らばっているそうだ。


 「ふうん、そのまま有機肥料みたいになってるのかな?」

 「そうかもね」

 「良く分からんが、きっとそうなんじゃろ」


 お婆さんは、最後の有機肥料という部分にだけ反応したっぽい。

 帰り際にお婆さんに消石灰が向こうで高く売れる事を話し、沢山仕入れて貰う様にお願いしてアパートへ帰った。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 「ねえ、今日はうちに泊まって行くんでしょう?」

 「本当はロデムの所ですっぽんぽんで寝たいんだけどね」

 「裸族って、そんなに快適なの?」


 あきらが何か真剣に考えてるっぽい。

 一人暮らしでこれにハマる人は結構居るらしい。

 宅配便とか来た時に困るんだけどね。


 「ちょっとそこのスーパーに寄って食材買って帰らない? 鍋パーティーやろうよ」

 「いいね! 何鍋?」

 「そうねぇ、しゃぶしゃぶにしようか」


 少し遠回りしてこの辺り唯一のスーパーマーケットに寄る事にした。

 一応大手チェーンなのだが、売り場面積はそれ程広くなく、食料品売り場しか無い。

 二人はそこで野菜としめじや椎茸といったキノコ、胡麻ダレとポン酢、そしてメインの牛肉の薄切りを500g、インスタントのわかめスープ等を買った。


 「土鍋と出汁はうちにあるから、これでOKかな」

 「楽しみ。お肉久し振りなんだ」

 「そうなの? きちんと食べないと駄目よ」


 荷物は優輝が持ち、二人並んで薄暗い道を並んで歩いて行く。

 ああ何かこういうの良いなと優輝は思った。

 この綺麗なお姉さんと自分は今付き合っているんだなと実感したからだ。

 付き合っている時って、この何でも無いただ一緒に歩いているだけでも楽しいものだ。


 アパートの外階段を上ると、あきらの部屋の電気が点いているのに気が付いた。

 二人は顔を見合わせた。

 また誰か侵入者が居るのか、また麻野さんが何かやったのかとあきらはうんざりした気分に成った。

 ドアの外から確認すると、部屋の中には二人の人物が居るのが分かる。


 荷物をアキラに渡し、鍵を開けて優輝が勢いよくドアを開けて中に入る。

 あきらはその後ろで侵入者の足の自由を奪う体勢で身構えている。

 優輝は、もうかなりの回数、向こうの世界とこっちを行き来しているので、エネルギーレベルはかなり上昇している。

 並の人間にはそうそう負けない自信が有った。


 優輝の突入に、中の侵入者の二人は驚いていた様だが、その内の一人が素早く立ち上がったと思ったら、優輝の視界はぐるんと回転し、気が付くとうつ伏せ倒され左腕を後ろに捻じり上げられて、あっという間に床に抑え付けられてしまった。

 優輝は酷いデジャブを感じた。

 ああ、前もこんな事あったなー、俺カッコ悪いと思った。


 「いてて!」

 「観念しろ! 泥棒め!」


 「お父さん!?」

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