第3話 辺境の村
この世界はバーハラトとよばれている。
三つの大陸のなかで、ノルガード王国は東方のアルドバラ大陸の北部に位置してる中堅国家であった。
アルドバラ大陸でもっとも巨大な大国は南方の穀倉地帯を擁するマグノリア王国である。
そして東部のメイザード神聖国が大陸では二大国と呼ばれていた。
しかし大陸における人類の生存領域というのは実はようやく半ばを超えた程度にすぎない。
まだまだ未開発の荒野と魔物が闊歩する危険地帯は多く、その多くは実りの少ない不毛の大地であるため、人類国家は長い歳月、もっぱら収穫が保障された同じ人類国家同士の土地を奪い合ってきた。
ノルガード王国の位置する大陸北部も、七つの王国が群雄割拠する戦国時代と化しており、定期的に戦争が繰り返され数多の命が失われてきた。
幸い、ノルガード王国は盟友であるヴェストファーレン王国と協力することによって、この百年の間他国の侵入を許していない。
しかし近年、スペンサー王国の台頭が著しく、数年前レダイグ王国を連破して半ば属国状態に追い込んだことで頭ひとつ抜けた存在となった。
さらに婚姻政策で精力を伸ばそうとしているらしく、もしスペンサー王国が三か国の力を手にしたならば北部統一は近いのでは、と噂される。
とはいえ、北部地域は不毛の荒野や魔物が闊歩する樹海が国土の半分を占めており、面積ほどに人口や経済力は大きくはなかった。
そのなかでももっとも大きくまとまった空白地――ウロボロスラントを所有しているのが北部最北端の王国、ノルガード王国なのであった。
もしこの空白地を開拓することができれば、ノルガード王国は七つの王国のなかでも飛びぬけた力を持つことができる。
そうした思惑のもとかつて四度に渡る開拓団が組織されたらしい。
しかしその結果は惨憺たるものだった。
作物が収穫できず餓死する者多数、そのうえ魔物襲撃が絶えず開拓団が全滅することすらあった。
かろうじて比較的開けた土地に柵をめぐらし、小さな村を開くことができたのは最後の四回目の開拓団であったという。
そんな猫の額のような土地を開拓しても国力には全く影響しない。
結局労ばかり多くて実入りが少ない開拓団が再び組織されることはなかったのである。
エルロイが追放されたのは、そんな誰からも見捨てられた流刑地なのであった。
「眠れませんか?」
簡易テントのエルロイの隣には、ごく当たり前のようにユイが横になっている。
体重でメロンのような巨乳がひらべったくつぶれる様がなかなかにエロい。
ユイが六年前エルロイの使い魔になって以来、仕事がなければエルロイの隣は常にユイの居場所である。
「…………みんなには悪いけど、わくわくしてる」
我ながら子供のようだ、と思う。実際今の俺は子供なんだけどな。
誰も好き好んでいかない最果ての流刑地なのに、ヨハンやロビン、ユイと信頼できる人間だけしかいない日常がこんなにも気持ちのよいものだとは思わなかった。
これなら野宿も食事が貧しくなるのも何ら苦痛には思わない。
「おっぱい揉みます?」
「いや、それ落ち着くよりますます眠れなくなるから!」
「私はいつでもOKですのに…………」
毎晩いっしょに寝ているから、去年精通したことを知られてしまって、それ以来アプローチが続いている。
まだ身体が子供だから耐えてはいるが、もう少し成長して暴れん棒になってしまったら誘惑に耐えられる自信がない。
「童貞はロマンチストなんだ。夢を壊さないでくれ」
「ガリエラやユズリハたちに気づかれないようにするって、ロマンチックじゃありません?」
「それは断じてロマンではない!」
スリルはあるかもしれんがな! それはそれでいけない趣味に目覚めてしまいそうだ。
煩悩を振り払うように固く目を閉じて俺は羊の数を数えだした。
翌朝目が覚めたらユイの巨乳にいつの間にか顔をうずめていて、ちょっと自分で自分が信じられなくなった……。
朝からユズリハとガリエラの視線が冷たい――なぜだ?
「…………本当になにもないな……」
「報告書を信じるならば、あと少しで村があるはずなんですけどね。三年前の報告書ですけど」
「開拓する気あるのか?」
「ないからご主人様を追放したのでしょう?」
来る日も来る日も同じような景色、作物が育たなそうな荒れ地か、自然こそ豊かだが魔物や毒を持つ危険な小動物が満載な樹海ばかり。
かろうじて道らしき道があるのが逆に不思議なくらいであった。
「――――三年前の記録も馬鹿にできませんな」
ヨハンが指さす方向に、木柵らしいものが見えた。
報告書の記述が正しければ、そこはウロボロスラント最初の開拓村、ラングドッグ村であるはずだった。
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