第114話 巨きなるもの
「こぉのバカ息子がぁ!」
(ゴン!)
「うぁぁぁあああぁん」
「みんなに心配かけて!」
(ガン!)
「おぁぁぁあああぁん!」
森の入口付近までくると、何十本もの松明の灯りが
自分の息子が心配とはいえ、村人たちを危険にさらすわけにもいかない。親心と村長としての責任感の間で心を痛めていたことだろう。みんなで一先ず集会所に戻った今は、村人たちに詫びと礼を言って回っている。
そんな村長に代わって?村長の奥さんとディアナが交互に、トラス君に拳骨を落としている。奥さんもディアナも薄っすら涙を浮かべて心配してたから仕方ないけど、トラス君は泣きすぎて干からびるんじゃなかろうか。俺の背中もべちゃべちゃで少し気持ち悪いし。…早く洗濯したい。
「ルイ、本当にありがとうなぁ」
「いーえ。間に合って良かったです。本当に」
連れ帰ってすぐに礼は言われていたのだが。村長が村人たちへの挨拶周りを終えて、改めて俺たちのところに来てくれた。
「トラス達には良い勉強になるって思ったんだぁ。巨きなる者と一緒に行けば、伐採所までの道すがら、何かしら得るものがあるだろうと思ってなぁ。けんど、未熟過ぎたみてぇだ。見習うどころか張り合っちまって。迷惑かけて申し訳ねぇ」
「あの、その巨きなる者っていうのは、何なんですか?」
お、ナイスだシャロレ。人の話に口をはさむのが苦手な俺が聞きそびれてた単語を拾ってくれた。村長は意表を突かれたような顔をしたが、自分が説明していなかったことに気づいて笑いながら答えた。
「んぁ?あ!あぁっはっは。すまね。俺らの中ではそう呼んでるんだ。お前ぇたちも猟師なら、二つ名は聞いたことあるだろぉ?」
「どんな獲物も急所を射抜いて1本で仕留めるから "二射要らずの〇〇" とか、いくつもの山を越えて獲物を追い詰めるから "御山またぎの〇〇" とか呼ばれる人も居るわね」
「そうだぁ。ちっとやそっとじゃ付かないが、仲間内から尊敬されるような猟師には、狩猟の腕前に見合った二つ名がつく。ルイは猟師じゃねぇが、あれと一緒だぁ。わしらハーフジャイアントは、いやさジャイアントから受け継いでるんかなぁ。でっかい奴を、巨きなる者と呼ぶんだぁ」
「俺、小さいですよ?」
二つ名が付いたようで嬉しいが、人間の中でも小さい方の俺は、とてもじゃないがハーフジャイアントのみなさんにデカいと言われる身長ではない。なお初めて二つ名的な呼ばれ方をしたのは "家事手伝いの" だったが、あれはノーカウントだ。
「身体の話じゃねぇよぉ。心持ちの話だぁ。海のように広く、山のようにでっかい心の持ち主よぉ。わしらは身体が大きいし、何にしても大きいことは良いことだって思ってる。けんど、他の種族やらが小さいからって馬鹿にしちゃいけねぇ。んだからそれを忘れねぇようにって自戒も込めて、身体以外に大きなもんを持ってるやつを巨きなるものって敬うようにしてきたんだ」
「うへぇ。やめてくれよ。そんな大層なもんじゃないって」
「そうそう。ルイってば私たちの分の揚げパン買っといてくれないくらい、心の小っっっさい男なんだから!!」
「その通りです」
まぁだ根に持ってたのかエリエル、ていうかレナエルもかよ。まさか "朝ごはんは何を食べたのですか?" などという高度な誘導尋問があるとは思わなかったし。今度から気を付けよう。それはどうでもいいとして。
巨きなる者なんて呼んでもらえるのはありがたい話だけど、分不相応で恥ずかしくなる。過大に評価されるのも苦手だし。そもそも名付けがされると、そんな人であり続けないとって義務感に引っ張られてしまうみたいで、何だか落ち着かないのだ。
「いんやぁ。俺たちがそう呼んでるだけだ。気にすんなぁ」
「気になるって」
「あっはっは。まぁ、疲れただろうし今日は休んでくれぇ。俺らも解散するから、礼の話とかは、また今度なぁ」
「あー、確かに。ほんと疲れたし、今日はもう、風呂入ってメシ食って寝るわ。村長さん、また。レヴィとシャロレも、また明日話そうぜ」
「えぇ」
「はい。ありがとうございました」
「また明日話そうねー!」
「失礼します」
レナエルはレヴィシャロとは伐採所で挨拶程度に言葉を交わした程度だけど、ちゃんとした紹介は明日で良いだろう。手を振って階段をあがり、部屋へと戻った。
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