第101話 加工工房
「がっかりだよ!ほんと、がっかりだよ!大事なことだから2回言うけど、本っ当ぅーに、がっかりだよ!!」
「3回言ってるぞ…」
昨日、レヴィシャロの二人と別れてから、一応すうぃーつの店とやらもチラチラ探しつつ村を歩いてみたのだが。お菓子屋さんというのだろうか、そういった店は見当たらなかった。仕方がないので本来のお目当てである革製品の店に行き、制作を依頼していたゴーグルを入手。
想像していた以上の出来栄えで、あまりの格好良さに打ち震えた。集会所の宿に帰ってからも付けたり外したりを繰り返す俺にエリエルが、 "もう、付けっぱなしでいいんじゃない?" などと良いアドバイスをくれたので、付けっぱなしで寝た。さすがに寝返りが打てなかったので途中で起きて外して寝たが、それくらいお気に入りの一品に仕上がったのだ。
一夜明けて今日。スウィーツ的な店について村の人に聞いてみたところ、意外な事実が判明した。この村には菓子職人のような人がそもそも居なくて、果物などはそのまま食べるスタイルだそうな。結果、この面倒くさい天使が誕生した次第である。
「素材そのものも美味しいよ?大きさ的にも食べ応えはベリーベストよ?でも私は!私は!スウィーツが食べれると信じてたのに”ぃー」
「泣くな面倒くさい」
「ルゥイィ!あんた、そんな態度でこれからも冒険者をやっていけると思ってんの!?」
「言っとくが冒険者ってのは、世界を巡り巡って美味しい食べ物を食べる職業じゃないからな!?」
それも一つの楽しみにはしてたけど。…ていうか今のところ確かに、エンで野菜や乳製品、トヴォで魚介、トルヴにも秋が旬の美味しい果物を求めて…あれ?もしかして合ってる?
「ま、フェムには菓子職人も居るみたいだしな。フェムに行くのが遅くなりそうなら、俺がそのうち作ってやるよ」
「言ぃーったからね!?絶対だからね?約束したからね?あっはーっ超楽しみぃぃぃ!」
「静かにしてたらな」
「はい」
騒がしい天使のせいで少し目的を見失いそうになったが、今日の目的は木材加工の作業所だ。村長さんに、トヴォ行きの木材や漁船の部品の加工を担当する工房を紹介してもらったのである。
木材加工が盛んなこの村でも一番の工房で、”あらゆるものを木で作る” 親方が居るらしい。親方というと、どうにもいかついイメージがあるんだけど。怖い人じゃなければいいな、などと話しながら、村はずれの大きな建物に到着。
・・・
工房は集会所ほどじゃないにしてもかなりの大きさで、ちょっとした町工場みたいだった。大きな建屋の正面には、これまた大きな開口部が設けられている。屋内から外にかけて加工前の丸太がそのまま寝かせてあり、大半は建物の中に、一部は建物の外に飛び出しているところをみると、なるほど作業場には確かにこれだけの広さが必要になるよね、と納得。
作業場の外にも小さめの丸太や角材、端材や工具類が…あちらこちらに散らかって……うっ!久しぶりに家事妖精の血が騒ぐ!!
「ねぇルイ?大丈夫?いつもの病気?」
「病気って言うな。家事は心のオアシスだ。大丈夫、俺は冷静だ。問題ない」
目を閉じ、深呼吸。・・・よし、落ち着いた。もう大丈夫だ。
「…すみませーん、村長さんの紹介で片付けに来ましたー」
「ルイィ!?全然冷静じゃないよ!違うよね!?見学に来たんでしょ!」
「…おぉぅ、ちょっと待ってろぉ」
中に向かって呼びかけると、こちらからはちょうど壁の裏側に当たっていて見えない場所に居たのか、割と近くから返事があった。真っ暗な建物入口の壁際、暗がりから大きな人影がゆらりと…。
「うぉ!?」
「きゃっ!?」
突如、まばゆい光に照らされて目がくらむ。ぎゅっと目を閉じて反射的に両手でガードし、恐る恐るまぶたを開けるが…少し目をやられたのか視界に
「…。一体、何が?」
「んん?あぁ、すまねぇすまねぇ。…これで、よし、と。もう大丈夫だろ」
声を頼りにゆっくりと手を下ろす。すると先程まで誰も居なかった建物入口に、タオルを頭に巻いた壮年の男性が立っていた。
身長は村長さんに近いくらいだろうか、村人たちの中でもかなり大きい方だろう。横よりは縦に大きいタイプの人だが、アスリート系だった猟師さんたちよりも体格が良い。いわゆるマッチョで、どちらかと言えば巨大なプロレスラーのよう。とても強そうである。眉毛は太く、口の周りからアゴ下にかけてひげをたくわえている。
「いやあ、悪かったな。中での作業だったからタオルはずしてたんだわ」
「タオル?頭の?」
「おぅ。新しいツヤ出しを試してみてたんだが、ちぃと光り過ぎる感じだな」
「ねぇおじさん、何で頭にツヤを出したいの?」
「ん?頭にツヤを出したいんじゃねぇよ。木だ。木。うちの木製品に使うんだよ」
「「ん?」」
このおじさんが親方さんだった。見た目に反して?とても気の良さそうな人である。エリエルと二人で首をかしげつつ追加で説明を聞いたところ、この工房で新しく使うツヤ出し剤を、つるりと禿げ上がった自分の頭で試してみたんだとか。
”俺がこの世に送り出す木製品は我が子のようなもんだ。大切な我が子に塗りたくる物は当然、塗料だろうが仕上げ剤だろうが、使う前に俺自身で試す必要がある。それが親心ってもんだろう?” とのこと。
うん、分かった。つまり、ちょっと変わったタイプの職人さんだ。こういう人、嫌いじゃないけど。あとあの閃光はツヤ出しとかいうレベルじゃなかったぞ?網膜焼けるかと思ったからな?
「んじゃ、改めて。俺がこの工房の親方をやってる、クグノだ。よろしくな」
そう言って親方は、にかりと笑った。
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