第89話 レヴィとシャロレ


「ルカ!お前、鳴き声でヘイト稼げるのか?すごいなー、えらいなー」

「クルッククルゥ!」

「猫耳ローブに水中メガネで、ハンマーを手にした変人が突然現れたら、びっくりして思考停止するか、できるだけ近づかないようにしようとするか、どっちかなんじゃないかな?」


 ルカをモフり倒しながら褒めたたえる俺にエリエルが何か言っているが、無視だ無視。いくら何でも、今の格好がそこまで注目を集めてるはずがない。ファッションにはまった時期があるとか言ってたけど、レディの道はまだまだ遠いようだな。……まぁ磯メガネだけは外しておこうか。視界狭いし。


 さて。どっちが悪者か分からないとか、明らかに俺の手には負えないとかだったらどうしようと思っていたけど、状況は分かりやすかった。女の人が二人、複数のオークに襲われていた。囲まれてるし形勢は不利っぽい。この状況なら獲物の横取りとか言われるようなこともないだろうし、声をかけて参戦することにしよう。


「助太刀する!二人とも、自分の身だけ守っておいてくれ。ヒール!」


 念のため大声をあげ、ヒールを飛ばすことで、更にヘイトを稼いでおく。オークは突然の乱入者に苛立ちを隠せない様子で、いきり立ってこちらへ向かってきた。囲みも解けたし、これで一安心。あの人たちは大丈夫だろう。


 こちらはというと、5匹程度なら問題ない。オークにはエンからトヴォへ向かう山道でも遭遇したが、あの時は1匹でもそこそこ慎重に戦う必要があった。だが今は…


「ふっ、はっ、ふんぬ!パリィ、からの…ジャイアントスイング!トドメはぁぁ、ムーンサルトォ!」

「フグッ!」

「フグゴッ!?」

「「ゴアァァ!?」」

「…ッフ、フゴ、アァァ!?」


 1匹目の槍をかわして懐に飛び込み、左わき腹にフルスイング。ノックバックと同時に視界が広くなって2匹目が飛び込んできたので、フルスイング後の残身で背面近くにあったハンマーヘッドを前方に振り戻して2匹目の頭上に落とす。その攻撃で一瞬生まれた隙に合わせるかのように、横から突き出された3匹目の槍を回避。


 それに呼応するかのように突き出された4匹目の槍はパリィで叩き落とし、ジャイアントスイングで3匹目と4匹目を同時に撃破。次々とやられていった仲間たちの姿に驚き、固まった5匹目は隙だらけだったので、大技のムーンサルトで仕留めた。


 さすがに、一体を一撃で倒せるレベルになれば戦闘も安定するな。もう少し多くても大丈夫かもしれない。サハギン沼での特訓を通して、複数の敵を相手にした時の戦闘の組み立てが上達したことも大きいだろう。うんうん、成長してるな、俺。あとはやっぱ、ハンマーのおかげだな。


 槍も楽しかったけど、この威力、このモーション。全身で振り回してるだけで、生きる喜びが満ち溢れてくる。やっぱりハンマーには肉体疲労、食欲不振、病中病後の消耗を改善した上で、更には滋養強壮の効果もあるに違いな…


「…ルイ…ルイってば!今は他の人も居るんだから、早く戻ってきて!」

「ぃ?あ、あぁ。そうだな。どうも、こんにちは」


 あらためて、女の人たちに声をかける。二人とも消耗が激しそうだけど、命に別状はなさそうだ。


 オークに立ち向かっていたのは、ふんわりとした、少し癖があってボリュームのある黒髪の女の人。髪の間からは小さな角がちょこんと飛び出ており、身長は女の人にしては少し大きめ。何がとは言わないが大きくて、牛の獣人?っぽい。今まさに仲間をかばって戦っていたとは思えないほど優し気な、かわいい系の顔立ちをしているのだが、気が抜けたかのように、呆然とこちらを見ている。


 その人にかばわれていたのは少しくすんだ黄金色っぽいストレートヘアーの女の人。耳の形や尻尾から、馬の獣人のようだ。目鼻立ちが少しキリッとした感じの、綺麗系の美人さん。けど、身長が俺よりも小さめで華奢な体格なので、女の人っていうよりは気が強そうな女の子って感じだ。


 対照的な容姿の二人だが、共通しているのは二人とも獣成分が少な目で、耳や尻尾がついているだけの人族って感じなところ。ただ、それよりもっと気になるのは、という点。オークと弓で近接戦してたのか?


「旅人なの?まずはお礼を言わないとね。助けてくれてありがとう。あたしはレヴィ、こっちはシャロレよ」

「あ、あの、ありがとう、ございました」


 二人が差し出した手を取り、握手に応じる。馬獣人の方がレヴィ、牛獣人の方はシャロレというらしい。見た目だけじゃなくて性格も対照的な感じなのかな。ちょっと勝気な感じのレヴィさんと比べて、シャロレさんは、おっとりした様子だ。


「ルイ。冒険者です。天使のエリエルと、ポワ・クルーのルカ」

「こんにちはー」

「クルゥ」

「冒険者…転生者なのね」

「…何か?」

「いえ。私の村ではあまり見かけなかったから、少し珍しく思っただけよ」


 レヴィさんの顔に、一瞬だが陰りが見えた。ふむ、転生者あるいは冒険者のことを、あまり快く思っていない様子?何かあったのかな?聞かないけど。


 助かって良かったですね、じゃ、ハイさよなら!…というわけにもいかないので、お互いの事情を少し話すのも兼ねてキャンプをはることを提案した。夕刻よりは少し早い時間帯だったが、二人が体力的にというより精神的に疲労しているように見えたからだ。


 見知らぬ旅人相手だし警戒されるかなとも考えたのだが、特に抵抗することも無く了承してくれた。命の恩人ということもあるだろうけど、それだけ消耗していたのだろう。


 野営準備は二人とも、中々の手際。慣れてる感じだし、問題なさそう。…なんだけど、オークに手こずっていたことといい、なんかチグハグというか、違和感があるんだよな。晩メシの時にでも少し事情を聞いてみるか、そんなことを考えながら、自分の分の野営準備を終えた。

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