第80話 スイカ割り


「セッ!」

(ボッ)


「ヤッ!」

(ボボッ)


「ハアァッ!」

(ザザーッ)


「うむ。威力はまだまだじゃが、コツは掴めた様子。前も注意したが、脇が開かぬよう意識することと、槍を引き戻す速さにも気を付けることじゃ」

「おぉ。やっと合格が貰えたかな?」

「いーや、まだまだよ。次の段階には入るが、基礎の繰り返しは続けることじゃ」

「うーぃ。精進しますとも。けど、ちょっと休憩させてくれ…」

「ふふっ、仕方のないやつじゃ」


 波割りは少しだけできるようになった。ただ習得したてのため、集中しなければ上手くいかず、体力の消耗も激しい。ワウミィの言う通り、まだまだのようだ。


「スイカ冷えたよー!」

「クルーゥ!」

「おー。エリエル、ルカ、ありがとう」


 波打ち際で遊んでいたエリエルとルカが、休憩の気配を感じ取ったのか、スイカを持ってきてくれた。ワウミィが村に立ち寄った商人から買ってきたものを、海辺に浮かせて冷やしておいたのだ。大玉は流石にエリエルには持てないので、ルカが運んでくれている。


「夏といえばスイカだよな」

「これも米と同じく、ここらでは最近流行り始めたものじゃがな。本当にここ数年で、見たことも無い食材や料理が増えたが…ルイだけではなく転生者は皆、食い意地が張っておるのか?」

「どこかの天使じゃないんだから、せめて食文化が豊かだといってくれ」

「ルイ?また私の悪口言ってた?スイカ要らないんだね?」

「さー、食べようか。切り分け…いや待てよ?せっかくだからスイカ割りするか!」

「スイカ割り?」


 ・・・


「ねぇ、前、見えないよ」

「見えたらダメなんだよ。さっき教えただろ?」

「では、回すぞ?」

「わ、わわっ、ちょっとワウミィ、速い、速いってばばばばー」

「ん?ルイが速ければ速いほど良いと言っていたが?」

「あっははは、そうそう。そんな感じ」

「絶対、ウソ!からかってるの、声で分かぁ~!?世界が回るぅ~?」


 ワウミィは既に手を放しているのだが、エリエルはふらふらと目を回している。


「まぁこれで、スイカがどこにあるか分からなくなっただろ?あとは、俺とワウミィが声で誘導するから、それに従ってスイカを割るんだ」

「うぅ~。絶対に当ててやるんだから!」


 ・・・


「右。もうちょい右。そうそこ。前に…あぁ左にズレた。いや左にズレたから右、右だって!」

「前へ、もそっと前へ、そうそう、今じゃ!」

「…ええぃ!」


(ぺちっ)


「「ああっ!?」」

「え?今の手応え…えぇっ!?何でっ!?」


 エリエルの振り下ろした棒は置かれたスイカから一玉分足りず、足元の砂浜に振り下ろされた。


「リーチの差か…」

「エリエル、惜しかったの?」

「く…たったこれだけの遊びなのに、何だかすごい悔しい…」


 ・・・


「ふふふ、真のスイカ割りとはどういうものか教えてやろう」

「ねぇルイ?なんでハンマー持ってるの?」

「ん?棒の代わりにハンマーで…いや、むしろ棒がハンマーの代わりだったと言った方が正しいのか?」

「どっちだっていいよ!ていうかハンマーで叩いたらスイカが木っ端みじんだよ!食べるとこ、無くなるじゃない!」

「安心しろ。レベル30で “手加減” スキルを覚えたから」

「加減の問題じゃないよね!?」


 安心して貰えるように爽やかな笑みを浮かべつつ教えてやったというのに、エリエルは何が不満なのかいきりたっている。


 手加減スキルはその名の通り、攻撃時に手加減することで敵の体力をごくわずかに残す技だ。ゲームによって、敵を捕獲したり説得したりするために相手を弱らせる必要がある場合や、他のパーティメンバーにトドメを譲りたいときに使用される。今のところそれほど役に立たないが、この世界でも必要になる時がくるのかな?


 なおレベルがあがったのはアングラウの経験値が多かったからだ。トドメをさしたのはワウミィだが、パーティメンバーの俺にも経験が入っていた。レベル30では珍しく二つ、手加減と削岩撃のスキルを取得した。削岩撃は無機物の破壊に有効らしいのだが、ちょっと検証が必要そうだ。


 さらに、ドロップアイテムとして雷属性の両刃斧の ”ラブリュス” と ”アングラウキャップ”も手に入れた。斧は使う予定が今のところないし、アングラウキャップは釣りレベルに補正が入るのだが、見た目がキモカワイイ系なので微妙に使いづらい。胸鰭を引っ張ると提灯部分が光るなど、無駄に凝っているところも腹立たしい。


 ワウミィは ”鬼神の小手” を手に入れていた。わちには不要じゃと俺に譲ってくれたのだが、STRが上がるので、これが実用面で役に立つ唯一の報酬となった。


 それはさておき、スイカ割りにハンマーはどうしてもダメらしく、槍の練習の際に使用していた長い棒と交換された。つくづく納得いかない。


「右~。違っ、右を向くんじゃなくて、前を向いたまま右に!右に…あれ?右を向いた方がいい?あ、でももう左!」

「まだ、まだじゃ、焦るでない。そう、ゆっくり前に…あぁ、そこではない!こっちじゃ!何?こっちがどっちか?右斜め、あぁ、わちから見て右斜め…分からんとな?もう!」

「二人とも説明下手か!ってわぷっ!?」


(ざぱぁーん)


「何で波打ち際に突っ込んでるの!」

「お前らが誘導したんだろ!?」

「ルイがちゃんと理解しないからじゃ!」


 ・・・


「まったく不甲斐ない者どもよ。仕方ない、わちに名案があるぅ~。よく見ておれぇ~」

「エリエル、俺、何だか嫌な予感がするんだけど…」

「ルイ、奇遇ね。私もよ?」


 目隠しと回転を終えたワウミィへの声かけを開始したのだが、何故かワウミィは歩き出さない。若干ふらつきながらも腰を落とし、何故か棒を槍のように構えた。震える俺とエリエルの制止の声も聞かず、槍を振りかぶる!


「目に頼らず、音に迷わされず…心眼!スナイプシュートォ!」

「ぅわぁ!」

「ひぃぃっ!!」


(ドスッンン!!)


 ワウミィの手から放たれた槍は一直線にスイカの方へ…は行かず、俺とエリエルの足元に砂埃を上げて突き立った!目隠しを外したワウミィは、勝利を確信したかのような笑顔で…。


「どうじゃ?」

「どうもこうもないよ!」

「あっぶねぇよ!」

「む?久しぶり故、勘が鈍ったか。よし、ならばもう一度…」

「「ダメに決まってるだろ(でしょ)!?」」


 ちょっとだけ、今度は手加減スキル使うから、などと言うワウミィを説得するのに時間がかかったが、今日のところは3人とも引き分けと言って、どうにか納得してもらった。


 スイカ割りを終え、大人しく普通に切り分けて食べながら休憩する。良く冷えたスイカはシャクッとかじると、口の中いっぱいにみずみずしくて甘い果汁が広がる。果肉も少し固めで歯触りが良く、次々とシャクシャクかぶりつきたくなる。


 自分的な好みでスイカの甘さ硬さには当たり外れがあるのだが、これはかなり好みのタイプだ。久しぶりなのもあって、格別に美味しく感じる。


「楽しかったね」

「うむ。たまには童心に返って遊ぶのも良いの。せっかくじゃ、目隠しや体勢が崩れてからの投擲も訓練に取り入れることにしよう」

「もしかして、たった今、訓練メニューが増えた?」

「波割りを修めたのじゃ。スイカ割りも修めねばなるまい?」


 良い笑顔だ。これは断れそうにない。波割りを修めた後はワウミィから色々な槍の技術を教えてもらえる約束だったのだが、そこにスイカ割りの技術も追加されてしまったようだ。…スイカ割りで投擲はダメって、もう一度、ちゃんと教えとこう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る