第44話 討伐!グレートディア!
グレートディア。この辺りでは希少な敵で、巨大なシカの魔物。ギルドの受付嬢いわく、ソロで倒すならレベル10は欲しいとのこと。今の俺のレベルは8だ。
つまり ”見つけられるかどうか ”、” 見つけたとして倒せるかどうか ”、さらに “都合よくドロップするかどうか ” の3つの問題をクリアする必要がある。もう一つ言うならば、時間との勝負だ。
「やるしかないよな」
「シカだけに?」
「お前、俺の真面目な空気を吹き飛ばして、やる気をそぐのが本ッ当に上手いよな?今すぐオフする?異次元行っとく?」
「違う違う!違うから強制送還しないで!?ほら、肩の力を抜いてー、リラックスしてー、そうすることでルイの狩猟の成功確率を少しでも上げてるんだから!いわば幸運の天使だよ!」
まあ眉間にシワ寄せてシリアスな顔したところで、変に力が入ってしまうだろうし?エリエルの言うことにもお米粒くらいの説得力が無いこともないが。ただ、どうにも疑わしい。これ以上問い詰めても何も出てこないだろうから、ひとまず納得して先に進むことにするが。
グレートディアの目撃情報は主に森。なので今日は森に来ている。あれだけ採取してて遭遇していないのだから確かにレア度は高いのだが、俺自身が避けていたというのも実はある。
バルバラ流 森歩き術には動物の痕跡をたどる知識も含まれており、いわゆる獣道の判別や、フンの色形匂い、樹木に体をこすりつけた跡、などなど様々な情報から判断して獣を追ったり、逆に回避したりすることができるのだ。ここ数日来の森歩きの経験から、探そうと思えば1日とかからず発見できると考えている。
と、あったあった。角とぎの痕跡。樹皮の剥がれ具合から、かなり近いはず。慎重に慎重に探索して…発見した。やっぱりデカいな。俺の身長の1.5倍くらいはありそうな高さに頭がある。ハンマーは…何とか届くか?
顔の怖さ、体つき、堂々とした振る舞いから威圧感にいたるまで、これまでの敵とは段違いだ。それでも杖なら楽勝だという自信はあるが、やはりハンマーで勝ちたい。まずはチャレンジだ。
エリエルに少し離れているよう指示し、接近する。遠距離の攻撃手段がない以上、近づく以外に方法は無い。せめて先手が取れるよう、最高速度で接敵する!
さすがにこちらの接近に気づいたグレートディアは、恐れる様子もなく戦闘態勢に入る。目を血走らせ、鼻息荒く足を踏み鳴らし、頭を下げて角をこちらに向け、迎撃態勢だ。ふ、と動き始めたかと思うと、
「速っっ!ゥグウッア!?」
「ルイッ!」
エリエルの悲鳴のような声を聞きながら、吹っ飛ばされた!
グレートディアの角をなんとかハンマーのヘッド部分で受け止めたため、刺し傷は浅いが、身長の3倍ほどの高さまで飛ばされ、大木の横っつらに叩きつけられる。そのまま、ずり落ちたが太い枝があったため、樹上にひっかかることができた。地上に落ちていたら追撃を食らったことだろう。
「ルイ!ルイーッ!」
「大丈夫だ!まだやれる!」
エリエルには気丈に応えたが、正直言ってヤツの速さには驚いた。油断していたつもりは無いのだが、ハンマーでの攻撃を当てるのは大変そうだ。さてどうするかと考えていたら、相手は俺が居る樹に体当たりを始めた。
(ズンッ・・・ズンッ)
体当たりされるたびに大きく揺れる樹。落ちそうになり、ふらつく俺。そうか、今までカブトムシやクワガタムシ達はこんな気分を味わっていたのか。ごめんな、カブト、クワガタ。俺は今後も叩くのをやめないけど。
いや、そんな事を考えている場合じゃない、このままじゃジリ貧だし、いつかこの樹自体が倒されてしまう。
よく見ていれば、体当たりの瞬間はさすがに動きが止まる。ここを狙って勝負をかける!
1…2…3…今だ!
「くらえ!バルバラ流杖…ハンマー術、大回転縦殴り!」
樹上から勢いをつけ、縦回転しながら飛び降りる。ちょうど樹に角を打ち付けて動きを止めたグレートディアの後頭部に一撃!縦回転して背中に二撃!三撃!最後はお尻に四撃目だっ!
「へぶっ!」
回転の勢いを殺せずに、そのまま地面に顔から着地する。痛みを我慢して立ち上がると、グレートディアはフラついていた。今がチャンス!ハンマーを握りなおして走り寄る。ふらつくグレートディアの、あごを目掛けてカチあげる!
「グゥレート・イィンパクト・ハンマーァァァ!!」
杖でできていた ”技” だ。やってやれないわけがない。最大威力を出せるように力強く踏み込み、腰から回転させて伝えた全身の力をハンマーの打撃面に込め、全力で叩きつけた!
「グゥオォォォォォ!」
グレートディアは遠吠えのような悲鳴を上げ、一瞬立ちすくんだかと思うと、地響きを上げて大地に倒れこむ。そしてほどなく、濃く大きな青いエフェクトになって消えた。
「やった、やったね!すごい、すごーいよ、ルイ!」
「ふぅ…やれやれ」
初撃の体当たりのダメージ、戦闘中のハンマーによる攻防から、全身の疲労が甚だしい。緊張の糸も切れて、その場にへたり込む。
「そう何回もは、戦いたくないんだけど、どうだ?」
息も切れ切れ、そのまま仰向けに大の字になって、ドロップの確認はエリエルにお願いした。
「んー、あれ?あ、これ!あった、あったよ、角!」
「いよーっしゃあぁぁ!」
わざわざ両手で抱えて持ってきてくれたエリエル。俺は両手のひらを固く握りしめ、天に掲げて雄たけびをあげる。
どうやら1体目で目当ての素材がドロップする幸運に恵まれたようだ。ドロップ率が何%かは分からないけど、女神さまに感謝だ。これでグレートディアを何体も倒さなくて済むし、何より早く薬を届けることができる!
さすがに今日は無理だけど、休んで体力が回復したら薬の錬金にとりかかることにしよう。
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