第40話 初めての討伐クエスト


 翌朝。昨日洗ったリネン類のおかげで良い香りに包まれ、目覚めは最高。バルバラ印の洗濯洗剤(改)はご近所の奥様方にも是非おススメしたい一品だ。


 エリエルは就寝前にオフにしたが、かなり不満そうだった。ずっと出しておこうにも寝かせる場所が無いしな。


  ”一緒のベッドでも良いよ?” とかモジモジしながら言ってきたが、チベスナ顔で却下だ。朝起きたら背中の下でペラペラにつぶれたエリエルを発見するとか勘弁してほしいし。かといって夜中に騒がれたりプンプン飛ばれたりしたらたまらない。イメージは・・・蚊?


 専用ベッドでも作るか?…今気づいたけどこいつ、色々と用意しないといけなくて面倒だな。カブトムシの方がまだ世話が楽だ。虫かごと砂糖水さえあれば何とかなるし。


 ん?虫かご・・・一考する価値がありそうだな。幸せそうに俺の目玉焼きから黄身の部分だけ吸っているエリエルを見ながら、そんなことを考えていたら、


「ん?」

「いや、何でも無い」


 エリエルが顔を上げるが、口から鼻の辺りまで真っ黄色だ。ミニサイズのスプーンとフォークも必要だな…。せっかく爽やかに目覚めた朝なのに、仕事がどんどん増えていくようでため息が出る。


 ハンカチとタオルは昨晩ってやったけど、その他の道具類は木の枝でも削り出して作るか。ほぼ白身だけになった目玉焼きを口の中に放り込んで、出発だ。


 さて、気を取り直して、いよいよ今日は初めてのクエストに挑戦。冒険者ギルドに立ち寄って、常時依頼を受注する。ゴブリン、ワイルドボア、一応グレートディアも受けておいた。期限も無いみたいだし。


 街を出て草原へと向かう。ゴブリンは街道を外れれば割とすぐに見つかるとのことだったが…いたいた。こんなに簡単に見つかるのに街道や街に滅多に姿を現さないのは、基本的に臆病だからと言われている。ただどちらかというとこの傾向には、ゲーム的な世界というルールが働いているのかもしれない。


 近づくと、俺を獲物と認識したのか襲い掛かってくる。初めての戦闘と同じ動きを、今度はハンマーで試してみる。


「ふっ、はっ、…っふんぬ!」


 一撃、二撃・・・からの、三撃!横なぎで脇腹を狙い、怯んだ隙に戻してもう一撃。それでも倒せなかったので、大きく振りかぶってゴブリンの頭めがけて振り下ろす。


「グゲゲ…」


 いったん攻撃をやめて様子をみると、ゴブリンは動きを止めて少しうめき声をあげた後、青いエフェクトの光を残して消えていった。その跡には薄汚れたナイフが落ちている。ドロップアイテムというやつだ。


「3撃か。まあこんなものなのかな」


 初めての真っ当な戦闘としては上々だと思う。今回はちゃんと戦った、という手応えもあり、初のアイテムドロップもありと達成感がある。冒険者カードを見ると、<ゴブリン(1)>という記録が表示されていた。倒した証明として耳を切り落として持ってこい、といったシステムじゃないのが嬉しい。


「さて、どんどん狩りますか!」

「ルイ、嬉しそうだねぇ」

「そりゃ、な。初めての依頼、初めての真っ当な戦闘、初めてのアイテムゲット!とくれば、冒険者してるって思うじゃないか。ここまで長かったけど、やっと始まったって感じだよ」

「良かったぁ。私はてっきり、ハンマーでゴブリンをボコるのが楽しいだけなのかと思ったよ?」

「当然それもある」

「…。」

「さ、次々いくぞ!」


 微妙な顔をしているエリエルはおいといて、次々とゴブリンに襲い掛かる。ハンマーを全身で扱う喜びに打ち震えつつも、もちろん様々な検証を忘れない。部位破壊的なことが可能かどうか、武器を叩き落とすことが可能かどうか、一部分だけ攻撃したら、目や股間など弱点は?クリティカルヒットは?


「ここまでで分かったことの中で特に大切なのは、敵にもHPがあるということだ」

「何で?」

「そうだな、例えば…(ペチッ)」

「あ痛っ!何すんの!」

「こうして、軽くデコピンしたとする」

「しないでもいいよね!言えば分かるよね!?」

「まぁまぁ。人間だろうが動物だろうが天使だろうが、デコピンなんか何回くらっても死にはしないだろう?」

「そりゃあそうだけど。同じとこに何度もされたら青くなるくらい?」

「そうだ。ただこれでダメージが1入ってるとしたら、どう思う?」

「んー、どういうこと?」

「分かりにくいか?じゃあ例えば巨大なドラゴンが居たとする。HP10000だ」


「待って。ここで話題が変わったら私、デコピンされ損」

「安心しろ、言いたいことは同じだ。そのドラゴンの足の小指を、ハンマーで叩いたとする。ダメージは1だ」

「まあ、ドラゴンだもん。固いよね。ほとんどダメージは入らないよね」

「そう、なんだ。ダメージ自体は確かに入ってる。このまま、ドラゴンの足の小指をハンマーで1万回トントンする」

「ドラゴン可哀そう…」


 確かに。俺もある日突然現れた小人さんに、足の小指をハンマーで1万回トントンされた日には “どんな拷問だよ!” って思うし、前世でどんな悪いことをしたらそんな目に遭わされるのか、深く悩むと思う。地球での俺、何か悪いことしてなかったかな…。


「ルイ?ルイ?」

「あ、あぁ、すまない。つまり、もう分かっただろう?たったの1でもダメージが入りさえすれば、ってことだ。どんな強敵でも、死なないように心がけて頑張れば倒せるって判ったのは大きい」

「…それは分かったけど、やっぱり私、デコピンされ損じゃん?」


 ぶつぶつ言うエリエルをなだめながら、その日はゴブリン退治に精を出した。レベルも3まであがり、ギルドでも報酬をもらえたし、幸先の良いスタートだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る