第14話 お使い3(お約束のトラブル)
「いらっしゃい。お使いかい?偉いねぇ」
訪れた店は野菜と果物のようなものを扱っている店だった。店員は恰幅のいいおばちゃんといった見た目のヒツジ?の獣人だ。
「そのまま食べれそうな果物とかありますか?」
家事妖精的に何となく分かるのだが、話しかけられたのでおススメを聞いてみた。
「それならこの籠のムーンフルーツがいいんじゃないかい。今がちょうど旬で食べごろだよ」
教えてくれた籠に手を出そうとして、隣の人にぶつかってしまった。
「あ、すみません」
「お?このガキ!痛ぇじゃねぇかこの野郎!」
む、ここで絡まれイベントか。冒険者ギルドで大丈夫だったから少し気を抜いてしまっていたようだ。これがゲームなら戦闘に入って返り討ちにしてという感じなんだろうけど、あいにくこちらは家事手伝いLv1。戦闘なんてできるはずもない。
「ティーチ、相手は子供じゃないか。よしなよ」
「うるせぇババァ、ひっこんでろ!」
なだめてくれるおばちゃんにも怒り散らしているのだが…チワワ?犬獣人なんだろうけど黒目がちで、微妙に可愛い。そのせいか、大人ほどの身長で腰に剣を下げているにも関わらず、あまり恐怖を感じない。感じないんだけど、このまま放置というわけにもいかないし、どうしたものか。
「何黙ってやがる!世の中の厳しさってやつを教えてやろうかこの野郎!」
仕方ない。このままじゃお店にも迷惑がかかるし、土下座するなりお金払うなり、何か対応しなきゃな、などと考えていたら、
「何の騒ぎだ!」
衛兵さんが駆けつけてくれたようだ。そういえばバルバラも困ったら衛兵に声をかけると良いって言ってたな。急なトラブルで思いつかなかった。
「このガキが俺にぶつかってきたんだ。正当防衛ってやつだろう!?」
チワワめ。微妙に真実を織り交ぜてくるから反論できないな。
「黒が混じった銀髪の少年、君はルイだね?」
「あ、はい。どうして俺の名前を?」
「今朝がた、ベルンハルト隊長から全体通達があってね。君に何かあったら全ての衛兵の頭が無事じゃ済まない事になるから注意するようにと言われているんだ」
バルバラ…お前…過去に何やったんだ…。むしろ俺まで要注意人物みたいな扱いじゃないか。
「俺を無視して話を進めるんじゃねぇよ!このガキに俺が今から世の中の厳しさを…」
「やめておけ。この子はルイ。バルバラ様の縁者だ。下手に手を出せばタイガーファングもただじゃ済まないぞ」
「バ…バルバラ!?生きてやがったのか、あの婆さん!」
「まぁ!バルバラ様!?」
どうやらバルバラは衛兵さんだけではなく、この町の住民の間でも有名人のようだ。ただじゃ済まないという表現で、どっち方面に有名なのか多少の不安を感じるが。
「ま、まぁ、今日のところは見逃してやる。バルバラのババァ…様にもよろしく言っておけ…ください」
ティーチ?は急激に態度を変えて、カタカタ震えながらそう言った。
「いえ、こちらこそすみませんでした」
「お、おぅ。ちゃんと謝りゃそれでいいんだ。じゃあな」
足早に立ち去るティーチを見送って、衛兵さんにもお礼を言う。
「ありがとうございました」
「いや、間に合って良かった。いつも助けられるとは限らないから、気を付けるんだよ」
そういって衛兵さんも立ち去って行った。何だか微妙な展開になってしまったが、果物は買って帰ろう。
「あの、さっきの果物、2つ貰えますか」
「あぁ、いいとも。1つおまけしてあげるから、また来ておくれ」
ちょっとしたトラブルはあったけど、顔なじみの店が一つできたようだ。
家に帰り、今日の出来事をバルバラに話して聞かせる。果物屋で買ったムーンフルーツの皮をむきながら、ちょっとだけ絡まれた出来事を話した瞬間、バルバラの目が怪しく光った気がしたが、気のせいだと思うことにした・・・。
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