第6話 転生者と冒険者
シンアルは他にも色々なことを教えてくれた。転生者は基本的に15歳以上らしい。俺の体格が12歳くらいだったことも、シンアルが俺を地元民だと即断した理由のようだ。おそらくこの辺りも女神さまの配慮なんだろう。あの病気では小さい子供も亡くなっていたが、低すぎる年齢で異世界転移させられて、さぁ冒険者として稼げなんてハード過ぎる。
たぶんもっと楽な世界に転移させてもらったり、あるいは0歳児に転生して人生やり直したりとか、そんな感じだろう。ちなみにこの世界での冒険者登録は15歳から。これは転生者も地元民も一緒らしい。うん。分かる。子供には危ない職業だからね…分かるんだが、もしかして俺、年齢制限で登録できないのでは?ますます冒険者への道が遠のいていってる気がするのだが。
それはさておき、転生者はあの女神の間に現れる。現れたら部屋の外に待機している衛兵が少し様子を見てから、冒険者ギルドへ案内しているそうだ。ギルドで冒険者登録などの手続きを済ませて、それに付随する様々な説明を受けたら、あとはご自由にという感じらしい。
なお冒険者登録の際には当座の資金といくつかのアイテムも支給される。随分手厚いんだなという印象を受けるが、国やギルドによるこれらのサポートは昔から行われており、”世界のルール”なんだとか。
それと、女神の間に現れた転生者を衛兵がすぐに案内しないのは、”死に戻り”の可能性があるから。そう、転生者は冒険の最中に死亡した場合は、最後に登録した教会の女神の間で復活するのだ。普通に考えれば不思議なこの現象も、それが世界のルールとばかりに地元民は普通に受け入れているらしい。
総じて言えるのは、この世界は転生者に優しい世界で、彼ら彼女らが冒険者として充実した毎日が送れるようなシステムになっている。天災(あるいはその関連)で急な不幸に見舞われた俺たちが、本来の寿命の分くらいは幸せになれますようにという女神さまのコンセプトが正しく反映されているようだ。
では地元民はどうかといえば、こちらも明るく楽しく暮らしている模様。何故か転生者は生活・生産関連のスキルがあまり身につかないようで、地元民は主にその方面から転生者をサポートしている。中には冒険者になる者も居て、転生者に誘われてパーティーを組むこともあるらしい。
俺自身は想定外のトラブルに巻き込まれてしまっているけど、みんな幸せそうな良い世界に転生させてもらえたことについては女神さまに感謝したい。あと、エリエルには天罰を与えてくれるよう心から祈りをささげたい。
話をしながら教会を出て、街を歩く。シンアルはこの教会に勤めているわけではないとのこと。数年前に引退して、今は悠々自適の毎日。時々教会から頼まれてヘルプに入ることもあり、今日がたまたまその日だったというわけだ。
街並みはお約束の中世ヨーロッパ風で、石畳の道にレンガや漆喰の壁で建てられた建物が並ぶ。行き交う人々の髪の色が派手だったり、武器や防具を身に着けていたり、獣人と思われる耳と尻尾の人もいて感動を覚える。のだが…冒険者風の人々がみんな教会に向かっているように思われるのは気のせいか?
「シンアル?」
「あぁ、転生者が教会へ集まっているね。午前の集会は終わったはずなんだが、何かあったのかな。まぁ大騒ぎになっている様子でもないから、事件や事故といった類のものではないだろう」
転生者が不思議な挙動をするのはよくあることで、地元民はあまり気にしないらしい。
「さ、こっちだよ」
きょろきょろ辺りを見回していて遅れてしまった俺をシンアルが呼ぶ。向かうのは…門?街の外に出るのか?
「バルバラは人混みが苦手だとか言って、街から少し離れたところに住んでいるんだ。腕のいい薬師でね。昔は街でも時々見かけたけど、最近は腰を悪くしたとかでめったに出てこなくなったんだ。独り暮らしだから何かと不自由だろうし、ルイが身の回りの世話をしてくれればと思ったんだよ」
門の衛兵に片手をあげて挨拶しながら、そう説明してくれた。街は低めの壁に囲まれていて、出入りは門だけのようだ。街に入る人たちは身分証のようなものを見せているが、出るときはスルーらしい。
「ルイは身分を証明できるものを何か持っているかな?」
門から少し離れて、衛兵に話が聞こえないくらいの距離になってから、シンアルが聞いてきた。
「いえ。何もありません」
「うん。そうじゃないかと思ったんだ。何も荷物を持っていないし、連れの人もいない。街の人なら荷物を持たずに外出することはあるだろうけど、君は街の人のようには見えなかったし…だから…外から来て…連れの人に…置き去りに…ック…ゥゥ」
シンアル…泣きすぎだ。そしてその豊かな想像力でどんな物語が頭の中で繰り広げられているか分からないが、勘違いだからね?だからといって他に説明できないから訂正しないけど。しかしこれだけ泣きながら、ちゃんと歩けるのがすごいな。前見えてるのか?
「あぁ、すまない。身分証についても心配しないでいい。後日、私かバルバラの紹介だといってもらえば衛兵は通してくれる。その日に冒険者ギルドで住民登録をするといいよ」
冒険者ギルドは冒険者登録だけじゃなく、住民登録も行っている。冒険者登録を行った際にギルドカードが発行されるが、その際に使う魔法の道具で住民登録を行うことを、ギルドは国から委託されている。
なお転生者は住民登録しない、というかできない。冒険者カードの簡易版が住民カードなので、作る必要ないでしょ、ということらしい。逆に住民が冒険者になる場合は登録して、冒険者カードを発行してもらうことになる。俺は冒険者スタートじゃなくて住民スタートになりそうだが…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。